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寄稿=成長し続けるパ国牛肉輸出=世界第6位の生産国に躍進=亜国は輸入国に転落の危機?=パラグァイ 坂本邦雄

ブラジルで生産されている肉牛(Foto: FMVZ/USP)

ブラジルで生産されている肉牛(Foto: FMVZ/USP)

 世界の食肉市場及び貿易に関するアメリカ合衆国農務省(USDA)の最近の半期レポートに依れば、パラグァイの当2015年度の牛肉輸出は、前年比13%増の見込みで、44万トン(枝肉重量換算)に達すると予想している。これは2014年度には19%の成長率結果の輸出量38万9千トンに対し5万1千トンの増加であり、パラグァイは昨年勝ち得た世界で第6位の牛肉輸出国のランキングを今年も依然として堅持する事を意味する。

 なお、同USDA・レポートはグローバル・レベルでの牛肉輸出トップ国を次の通りランク付けしている。即ち、①インド240万トン、②ブラジル200万5千トン、③豪州159万トン、④米国109万8千トン、⑤ニュージランド55万5千トン、⑥パラグァイ44万トン、⑦カナダ37万5千トン、⑧ウルグァイ37万トン、⑨欧州連合31万トン、⑩ベラルーシ22万5千トン及び⑪メキシコ21万トンの計11カ国である。
 ARP・パラグァイ農牧協会のフィデール・サバーラ副会長は、パラグァイの牛肉輸出業が得たこの成果は、畜産業界及び国立家畜衛生品質局(Senacsa)の官民共同の適切な畜牛衛生管理などの対策が大いに功を奏した結果だと語った。

トップテンから転落したアルゼンチン

 ところで、ここにおいて一寸奇妙に思われるのは、かつては伝統的に「ビーフ王国」とまで言われた牛肉天国の筈であるアルゼンチンが、何故か今では世界の食肉輸出国トップテンの中にその名を連ねていないのである。
 同じく、アルゼンチンは世界で一番の畜牛飼育頭数を誇った国でもなくなった。そして、国民の一人当たりの年間牛肉消費量は2001年度のレベルに減退した。
 Ciccra・アルゼンチン食肉商工会議所に依ればアルゼンチン人一人頭の牛肉消費量は年間68キロだったものが2009年度には56・7キロに減った。
 かくして、世界の多くの国々よりも未だましだとはしても、過去100年来絶対優位にあったアルゼンチンは、牛肉の国民一人当たりの消費量を初めて隣国のウルグァイに追抜かれた。
 このアルゼンチン人の〃ビーフ離れ〃の現象の主な理由の一つは、牛肉の消費者向け小売価格の高騰(最近60%増)と、かつては誇った生体牛の保有頭数の激減にあると、多くの観察者の意見は一致している。
 そして、その原因は伝統の牧畜産業を犠牲にしても収益性が勝る遺伝子組替え品種の大豆生産を奨励したアルゼンチン政府の誤った政策にあると専門家は批判する。
 しかして、前記のCiccraは、国内消費者物価の統制政策を執ったクリスーナ大統領の皮肉な誤算だったと断じた。
 輸出にも障害を及ぼす国内交易省の厳しい牛肉価格の統制は、肉牛供給市場の急激な低調を来たし、当然のことながら市民主食の牛肉価格高騰の結果を招来した。
 肉牛供給の低下は飼育頭数が激減したためで、これは多くの牧畜業者がその牧場を収益性の高い大型大豆生産畑地に転用した他に、最近10年来の最悪の旱魃災害にもよったものである。
 亜国のSenasa・国立畜産食品衛生品質管理局の発表では2008?2010年の3年間にアルゼンチンの畜牛飼育頭数は370万頭強の減少を喫したと言う。
 一方、大豆の生産は年間収量5千万トン以上に成長している。カルロス・チェッピ元農務大臣は最近10年間にアルゼンチンの総農耕面積は1200万?1400万ヘクタールほど増反したが、これはイコール牧場面積が農業(大豆)生産の犠牲になった為の現象であると語った。
 なお、牧畜業界の関係諸団体は、この様な傾向が続けばアルゼンチンは遠からず牛肉を輸入しなければならない皮肉な事態に陥るだろうと、警鐘を鳴らしている。

パラグァイで伸びる「和牛」の飼育

 反面、斯様な隣国アルゼンチン近来の畜産業のスランプ傾向に対し、パラグァイは米USDA・リポートが示す様に営々として自国畜産業の改善・開発に努力して来た訳だが、その伝統牧畜業の中において近頃は日系畜産家に依る和牛種の飼育業が話題になっている。
 そして、最近アスンシォン市内の高級レストラン「El Pazzo」において、和牛肉のお披露目試食会が催され評判になった。
 ちなみに、パラグァイで和牛飼育の先鞭をつけたのは日系イグアス移住地の元大森農牧・CAOSA社(株)で、当初は99年に日本より受精卵を導入し、在来種の母体に移植した50%の交配種から始まった。
 その後、種々改良の過程を経て、2003年には100%パラグァイ産の〃純粋和牛〃が誕生した。
 この和牛飼育事業は、後年CAOSA社㈱の解散(イグアス農協が吸収)に伴い、パラグァリ県ヴァレンスェーラ群に転出した同社の林栄二郎元支配人の努力で、同氏のAyE社(株)により継承され、現在の発展を見るに至ったものである。
 和牛育種はパラグァイでは目新しい畜産事業で、国際市場でも近頃は徐々に注目されて来ている。
 日本では大事に育てた和牛肉の特徴〃霜降り〃の肉質が、特に日本人の繊細な味覚に合って好まれているのだが、牛肉と云えば代表的なアサード(焼肉料理)が従来〃大食い好み〃のパラグァイに限らず、和牛肉が洋食グルメに広まるのには未だそれぞれの食文化の問題があると思われる。
 これまでにも和牛肉の紹介試食会が既に幾度かなかった訳ではなく、なお複数の日系や他の東洋系レストランでも和牛肉料理のメニュウーが出されている。
 前述のレストラン「El Pazzo」で林栄二郎氏のイニシアチブで行われた試食会は、和牛肉の国際的知名度のより積極的な促進を図ったものに他ならず、国際連合教育科学文化機関が2013年末に日本の食文化の価値を認め、『和食』が「ユネスコ無形文化遺産」に登録された慶事を追い風に、これから和牛肉の普及が一般に加速する事を大いに期待したい。