移民の歌を特集するドキュメンタリー番組の収録のため、歌手・松田美緒さん(37)が来伯し、先月19日、サンパウロ市の宮城県人会に訪れ、故・佐々木重夫作詞の民謡「移民節」について関係者に話を聞いた。
松田さんはポルトガルなどの国外で歌手として活動しており、来伯は今回が14回目。「移民節」と出会ったのは、12年に文協内の図書館で「コロニア芸能史」を読んでいた時。「歌詞に移民人生が凝縮されている」と感じた松田さんはいたく感動した。
「移民節」は34年に宮城県から移民した佐々木さんにより、日本人移民60周年を記念して68年に作詞された。4番までの歌詞には移民船に乗船し希望の満ち溢れた心情や、ブラジルでの厳しい生活に対する悲哀、日本への望郷の念などが描かれている。
「佐々木さんが歌詞に込めた思いは移民にしか表現できない。日本の人にも知ってほしい」―。そう考えた松田さんは、ブラジルのリズムを取り入れたアレンジバージョンを収録し、14年にCDブック『クレオール・ニッポン──うたの記憶を旅する』で発表した。
佐々木さんが「移民節」を歌った録音は残されていない。だが、少しでも生前のことを知るために、松田さんは佐々木さんに縁のある人に集まってもらい、話に耳を傾けた。
来伯前にも佐々木さんの故郷・大崎市(旧古川市)を訪れ、親戚から話を聞いた。「皆さんの話や『移民節』の歌詞から佐々木さんの人間味のある人物像が浮かび上がってきた」と語った。
松田さんはサンパウロ州在住の佐々木さんの子息にも話を聞くなどした後、今月1日に離伯した。「移民節」の他にも浪曲「平野運平一代記」や熊本の民謡「五木の子守唄」版替え歌に縁のある人を訪れ、収録を行なった。
番組は去年放送された「NNNドキュメント,16 ニッポンのうた”歌う旅人”松田美緒がたどる日本の記憶」(読売テレビ制作)の続編。日本での放送は11月頃を予定している。
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松田さんが作品を発表するレーベル「CORE PORT」は多くの海外ミュージシャンの作品を日本に紹介している。中でも松田さんも交流があったというフランス生まれのピエール・バルーは特に有名で、母国に初めてボサ・ノヴァを持ち込んだといわれる。親日家としても知られ、日本人の妻を持ち、日本やブラジルのミュージシャンと多く共演したが、惜しくも昨年12年にこの世を去った。松田さんはブラジルのみならず、ポルトガルなど欧州諸国などでも公演を行ない、広く世界で活躍している。バルーがボサ・ノヴァを紹介したように、「移民節」を日本のみならず、世界中に広めて欲しいところ?!