日本人移民が降り立ったサントス。そのボケイロン海岸には毎朝六時頃になると三々五々、人々が集まってくる。海岸線をゆっくりと散歩する人の流れとは別に。
『新しい朝が来た。希望の朝だ』
六時三十分。ラジオ体操の軽快な音楽が、白い浜辺に響きわたる。五十人余りが等間隔に並ぶ。
揃いの白いユニフォーム姿の日系人は、ほんの二割程度。残り八割は非日系のブラジル人だ。「健康に良さそうだから」「おもしろいから」と興味を示し、気軽に足を運ぶブラジル人は絶えない。
そうした参加者の格好は、いたって自由。誰もこだわらない。Tシャツに短パンで、時にはビキニ姿でラジオ体操に励む人もいる。
週末や夏のバカンスの時期、長期休暇の時ともなるとラジオ体操愛好者がぐっと増える。百人以上にも膨れ上がる日も珍しくない。サントスは国内のどこよりも、ラジオ体操の〃混血化〃が進んでいる。
現在、ブラジルラジオ体操連盟に加盟しているのは三十五団体余り。会員は約二千五百人を数える。ほとんどが日系人だが、地域の体操会場では会員以外の参加者も実は多い。
二十世紀は人類史上、最も民族移動の進んだ時代だった。日本人が移住したからこそ、ブラジルにラジオ体操がある。そしてブラジルのラジオ体操愛好者が、世界で最も人種に富んでいるのかもしれない。それはまさに「ラジオ体操にみる民族の縮図」か、はたまた「多民族化するラジオ体操」か。
夜が明けた。いつもと何ら変わらない太陽が顔を出した。しかし、それは百年に一度、千年に一度の太陽だったりする。
『新しい世紀が来た。希望の新世紀だ』
今世紀はどうか。絶えぬ民族紛争による難民の流失や経済格差から生じる出稼ぎが増加するのか。二十一世紀はさらなる民族移動の世紀になるのか。ラジオ体操はなお一層、世界へと広がりをみせるのか。