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渡部和夫氏に聞く=文協をどう改革する

2003年1月1日(水)

 ブラジル日本文化協会(岩崎秀雄会長)で、部内改革の準備が進められている。現執行陣を一掃するほどの大改革であるらしく、大鉈を振るうのは元サンパウロ州高等裁判事の渡辺和夫サンパウロ大教授。日系コロニアには以前から距離を置いてきたといわれるこの人が、今なぜコロニアそのものを体現したような団体の改革に乗り出したのか、日系社会での指導力が著しく低下している文協をどう変えようというのかー。各界の意見を求めて奔走する渡辺さんに、新文協構想の一端を聞いてみた(文責編集部=二〇〇二年十二月十日)。

 今日ある文協を描いたのは山本喜誉司初代会長であり、以後の歴代会長は山本構想の実践家なのだったと、安立仙一文協事務局長は明言する。構想が具現化して以後、文協の地盤沈下が始まったとも受け取れる見解だが、これからの文協運営には再び時代に即応した構想とビジョンを打ち立てる必要があろうと、安立さんは言外ににおわせた。渡辺さんへのインタビューは、このことを踏まえた上で行った。
 ―日系社会には一定の距離を置いてきたはずの渡辺さんが、なぜこの時期にいたってコロニアそのものともいえる文協の改革に奔走し始めたのか、そのあたりからうかがいたい。
 戦前のバストスに生まれて幼少時、自分は日本式教育を受けて育った体験がある。当時「コロニア・ジャポネーザ」といえば、日本の延長そのものだった。戦後、移民たちはブラジルに永住を決め、日系コロニアのとらえ方も変わってゆくのだが、七〇年代あたりまでブラジル社会という大きなコミュニティーで生活しているという事実認識にやや欠けるような空気がコロニアにはうかがえた。
 これを戒めたい気分が強かったせいか、コロニアに無関心で批判的だと一部に誤解されたらしい。若い頃はアルモニア学生会やピラチニンガ文化体育協会などで率先的に団体活動してきたこともあり、日本の優れた文化を継承しこの国に伝えてゆくことなどには今も強い関心を持っている。

◇まず使命感持って=ブラジルのために役立つ組織へ

 ―文協改革準備委員会の統括責任(コーディネーター)を引き受けた経緯はー。 最近、文協の会計処理上の問題で、執行部の皆さんから相談を受けた。話を聞いてみると根は深く、これは小手先の解決で済まされるような問題でないと直感した。そこで現在の役付き理事の総退陣を求め、文協側もこれを了承した経緯がある。三月の役員改選期に伴っての「総辞職」の形となったが、現会長、副会長以下専任、常任など十六人の役付き理事は当面、文協活動に復帰、参画することはないと思われる。
 この処置とは別に、文協に対しては自分なりに改革案というか、「文協の役割はこうあるべき」とする構想のようなものを持てたので、杉尾憲一郎文協評議委員会会長のもとで改革準備グループを組織し、まず識者たちの意見を聞くことから始めた。植木茂彬、翁長ヒデオさんらも含め、その数は五十人には達したであろうか。彼ら二世、三世を含めたいずれもが、「文協という団体は必要である」と、その活動継続に賛同してくれた。全員が文協の存続を支持したのだ。問題は、これから何をいかになすかである。

◇文協継続全員が支持=思い切った意見を具申

 ―大雑把にとらえるなら、かって文協は在伯日本人による在伯日本人のための運営に終始してきた。移住者一世の衰退とともに、文協活動もマンネリ化してゆくのだが、これからは日系ブラジル人によるブラジルのための運営ということになろうか。
 それは確かにいえる。ただその前に、日系社会が日系人だけのためのコミュニティーであるかどうかを考えなければならない。この社会は、やはりブラジル全体に裨益できる存在であってほしい。ブラジル一般にもっと開かれた社会であるべきであり、言い換えれば、日本の優れた文化や精神性を共有、継承する日系社会に関心を持つ人なら、非日系人であっても日系コロニアの一員であると、自分は思っている
 ―そうしたとらえ方で文協も運営すべきだとー。
 文協は、今のままでは大きな日本人会にすぎない。例えば文協の役割のひとつには、視野をうんと広げた中で日本文化のこの国への移植、普及に力を注ぐという事業、運動があげられよう。残念ながら、この一事にしても文協が使命感をもって取り組んできたとは思えない。日本人移住が百年になろうとしているのに、ブラジルへの文化的影響度はまだまだまだ低いと思わざるを得ない。
 ―新しい文協は、二、三世層からの支持もあるとすれば、どのような組織にすべきだろうか。
 文協は、もっと大きな組織のもとで強化されるべきだと考える。日伯文化連盟や日本語普及センターなど、文協と同じような事業目的を持つ団体とは合併、統合するのも一案ではないか。話は少しずれるが、デカセギたちの子女教育、帰国後の職業選択などの問題や悩みを解決するために文協が率先して活動することで、地方文協とのつながりも強まるだろう。また全伯の日系人団体に対しての指導力を持てる方策をとることで、文協の新しい役割が定まってこよう。日系団体連合会という組織をつくった今の文協は、自ら組織と役割を縮小化させようとしているとしか思えない。
 文協に応援しようという人が実は大変多いことを心強く受け止め、その期待に応えるためにも思い切った改革を断行したい。

◇渡部和夫氏に聞く=文協をどう改革する

◇ビジョンのある人会長に

◇取材を終って―

◇渡部和夫USP大教授