1月22日(水)
コロニア文芸の発展に一生を捧げ、二十年前に他界した武本由夫さんの歌碑がこのたび、リベルダーデ区アルメイダ・ジュニオル広場に完成。その除幕式が故人の命日に当たる二十一日、遺族、友人ら約七十人が集まる中、執り行われた。「文学の鬼」――。そう畏敬された歌人の代表作が東洋人街の一角によみがえった。
「砂丘にまろびて 韜晦(とうかい)を愉しめば 海よりそよぎて 朝は流るる」
どの歌を刻むか。六月末に歌碑建立の話が持ち上がったとき、数人の関係者がそれぞれふさわしいと思われる作品を持ち寄った。大方がこの歌を推し、意見はすんなりとまとまったという。
故人を兄と慕った安民田済さんは、「いつも社会的エリートの地位にあった武本さんですが、ここではそういった世界から離れ、一無名人となったときのことを歌っている」と作品を解説する。
歌碑には野尻アントニオさんによってポルトガル語訳が添えられた。「『韜晦』(=才能、地位、本心などを隠すこと、姿をくらますこと)という一語が含まれるなど、翻訳は難しかったろう」と、安民田さんはその労をねぎらう。
除幕式は上妻博彦さんが司り、神道の儀に沿って進行。あいにく小雨がちらつく天候となりながらも、参列者たちは厳粛にこれを見守った。
式後は安良田さんがあいさつ。故人を「文学の鬼」と呼び、「その文芸活動に賭けた強烈な意志と情熱」を称えた。
続き、『日系文学会』代表、梅崎嘉明さんが碑に刻まれた歌をかみしめて二回、朗詠。歌に込められた意味を紹介するとともに、「今後、遺作集の刊行予定がある」と明かした。
リベルダーデ文化福祉協会を代表した網野弥太郎さんは「市から観光地点に指定されているリベルダーデに出来た歌碑としては二つ目になる。この広場は元劇場があった由緒ある場所。大変喜ばしい」とあいさつ。
孫世代まで列席した親族側からは武本さんの長男卓夫(あつお)さんが関係者への感謝の辞を述べた。
最後は、建立の発起人の一人だった水本すみ子さんが「武本さんは文学に、歌に一生懸命、力を尽くされた方。命日にこうして功績を残すことが出来てうれしく思う」などと、雨に打たれた御影石の歌碑を背に語り、師の面影を忍んだ。