1月29日(水)
「スーパーヒーローたちは現在、世界中で危機的状況にある――」
これはマンガの中の話ではない。昨年十一月末にパウリスタ大通りのSESI(産業社会サービス)内に開設されたアメリカン・コミ図書コーナーの記念イベントの一環として、二十八日にで行われたアメリカン・コミック(米国のコミック)に関する公開討論会で、コミック業界の最高権威の一人アウヴァロ・デ・モーヤ氏は繰り返しそう警告した。
アメリカを筆頭に、ブラジルや世界各地でアメコミの売上が落ちており、業界関係者は危機感を強めている。「我々のようにスーパーマンで育った世代でなく、インターネットやゲームなど多様な娯楽環境の中で育った世代が現れ、関心が落ちている。『マンガの書き方』は売れても、アメコミ読者にはならない」。
大人気の『ドラゴンボール』の著者、鳥山明のマンガ教則本がConrad社により、十一月末から売り出され、フォーリャ紙が三分の二ページを割いて紹介したことなどを、モーヤ氏は皮肉っているようだ。
「アメリカでは五〇年代に、コミックを有害図書と指定してしまったため、以来二十五年間、発達が止まり、バラエティさもダイナミックさも失われてしまった。その間、日本はマンガ文化を発展させ、独自のスタイルを築き上げた」とマンガ・アニメ情報誌編集者のペイショットさんは解説する。
アメリカでは五四年に、心理学者フレデリック・ワーサムが著書『Seduction of the Innocent』を発表し、コミックを有害図書として告発。世論がそれに同調したため、出版界も自主的にコミックス・コード(規定)を制定し、結果的に作家の表現や発想の自由度を狭めてしまった経緯がある。
「そのため規制の多いアメリカではストーリーが作為的になりすぎ、日本の方が自然で現実に近いと読者は感じている」とペイショットさんは一般読者の代弁をする。
同公開討論会ではUSP美術・コミュニケーション学部の元教授で業界権威でもあるジョゼー・マルケース・デ・メーロ氏も「アメリカの自主規制を受けて、ブラジルでも学校や公共図書館でコミックが締め出さる同様の処置がとられ〃暗黒の時代〃になった」と当時を説明した。
ペイショットさんは「恐らく欧米でマンガの暴力的、性的表現とかが、問題にされるのはキリスト教文化という世界観のせいではないか。その点日本は、比較的その辺が緩やかな仏教や神道が文化のベースにあるため、問題にならない」。マンガ・アニメを通して、いわば〃文明の衝突〃が起きていると論じる。
Conrad社のメダウアルさんは「今のところ、暴力や性的表現に関しては大きな問題になっていない」とし、懐の深いブラジルの文化的包容力を信頼している。
長い黄昏(たそがれ)の間に、東洋の情けないヒーローに主役の座を奪われていた――。スーパーヒーローたちの苦悩は、まだまだ続きそうだ。
(深沢正雪記者)
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