1月31日(金)
マンガ・アニメの隆盛は新しいメディアの発達により、コロニアのあたま越しに日本から直接流れ込んできた。ブラジルの日本食ブームが、欧米からの影響で始まったのと似ている。にしても、何らかの日系人の影響はなかったのか?
「日本移民の存在が、ブラジル人をして急激にマンガやアニメにのめり込ませる下地を作っていたことは重要な点です」
ブラジルにおけるマンガ研究のさきがけ、USP芸術コミュニケーション学部(ECA)ジャーナリズム科で七〇年代から「マンガ史」を教えるソニア・ルイテン教授は指摘する。
七四年、USPでの自分の講座に日系子弟が多かったことから、マンガ研究をはじめ、七六年から論文集『Quadreca』を刊行。その勢いで、USPマンガ研究者グループと文協マンガ展委員会が合併し、ブラジル漫画家協会(Abrademi)が八四年に発足。ブラジル初の愛好会活動をはじめた。
「日本国外の愛好会としては、世界でも一、二位を争う早い時期にできた団体です」と誇る。
会員の大半は日系二世であり、当時の活動はコロニアの域を出るものではなかった。だが、「初めてアニメ上映会を開催」「初めてのファンジンを刊行(八五~八七年)」、八四年には国際交流基金の招請で来伯した「〃マンガの神様〃手塚治虫氏による講演会を主催」など、〃セイヤ前〃期における孤軍奮闘の輝かしい活動を展開していたことは特筆に価する。
ルイテンさんは、八四年から八七年まで、大阪外語大などでブラジル文化・文学を教える機会をとらえ、マンガ研究を深めた。その成果であるUSP大学院博士論文は、九〇年に伊ルッカのコミック国際見本市を記念した最良論文賞「ロマノ・カリシ」賞を受賞する出来ばえだった。
それをベースにした著作『Manga-O poder dos quadrinhos japoneses(マンガ、日本製コミックの力)』(hedra社、二〇〇〇年、初版は九一年)まで発表し、マンガ研究界の権威となった。
アニメ隆盛の現状に対して「宮崎アニメのような良質なものが入ってきていない。すでに欧米で商業的成功をおさめている作品ばかりを持ち込む傾向があり、暴力やセックスシーンが過剰なきらいがある。本当のいい部分が紹介されていないのが残念」と惜しむ。
同時に「また欧米経由で版権が入手されることが多いため、英語字幕からポ語に翻訳するケースが一般的。おかげで誤訳やシンボリックな表現に関しての誤解が多々見られる。これだけ優秀な二世、三世がいるのだから、きちんと日本語から翻訳するようにすべき」と今後の課題を突きつけた。
現在起きつつあるマンガ界の動きとして「ブラジルを舞台にオリジナル作品を描く作家が徐々に増えてきている」と喜ぶ。
それに対して、プロの作画家のエリカ・カワノさんは「まだまだ、自分が描きたいものを描いている人が多い。市場が読みたいものを描く人が少ない」と後輩に苦言を呈する。また出版社に対しては「外国から持ってきた方が安くつくと思って、作家を育てようとしない」姿勢を指摘する。
越境する日本文化の〃種〃は、日系人という肥料のきいた大地に蒔かれたようだ。今までコロニアとは関係がなかったマンガブームも、日本語教育など、それを活用できる分野はある。たかがマンガと思うなかれ。その影響力はけっしてばかにできない。この新しいタイプの日本文化の芽は、いろいろな果実を生む可能性を持っている。=この項おわり=
(深沢正雪記者)
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