2月14日(金)
「子が死んで親が生き残るより、子が生き残ったほうがいいよね…」。参加者の一人、パラグアイの日系農業協同組合中央会相談役の久保田洋史さんは、ぼそりとつぶやいた。
視察二日目の昼食後に訪れた、セアザ(サンパウロ中央卸売り市場)近くのグランデ・サンパウロ南伯農協を立ち去る時のことだった。同農協は、九四年三月に南伯農協中央会が自主解散した後に生き残った元単協だ。同年八月に中央会から販売所を委譲され、それまで中央会が行ってきた生産物委託販売事業を肩代わりすることになった。
農協中央会の親心――。そんな想いを込めた言葉のように感じた。
視察旅行最後は、「しめじ」やOrgamin(オルガミン=有機エキス、葉っぱから吸収される肥料の一種)などを主力生産物とするFrutty Produtos Agricola社だ。作業場へ入ると、酸っぱいような、味噌のような臭いが鼻を突く。臭いのもとは、ドラム缶に入れて中央に並べられた、黄土色のオルガミン原液らしい。十五カ国に輸出し、日本にも六十トンほど行っている。
「今日も十五トン、台湾に出したばかりです」。社長の古田和男(六六、大阪府立大学農学部卒)さんは目をみはりながら情熱的に語る。
「きのこはすごい仕事をしている」。わずか二十日間で、六百五十グラムのおがくずから百グラム以上(冬場)のしめじが育つことを説明し、そう締めくくった。しめじ生産の敵はなんといっても雑菌だ。
水をかけて芯までぬらしたアメリカ松のおがくずをフラスコにつめ、一万二千ボルトの高圧電気ボイラーに入れ、百度を超してから二十分、百二十度でもう二十分殺菌してから、無菌室でゆっくり冷やす。「冷える時に空気を吸うから、無菌室へ人が出入りする時には扇風機が自動的に止まるようにしてあります」と工夫を明かす。
冷えたら、二階で培養してあった菌を、機械で中心部に穴をあけたおがくずに植え、フタをする。菌に発芽させるタイミングは、冷蔵庫に入れて十三度以下のショックを与えること。おがくずの表面が真っ白になったら、フタをとって、表面を均質に削り取る機械を使って「菌かき」をする。二十三度ていどに維持された育成室で二十日間ぐらいで収穫できる。
「日本の機械はすごい。十五年間使っても全然壊れない」。ここで使用されている機械類やフラスコのフタはみな日本製。
八人が作業に従事し、週に四トン生産、キロ十四レアルでレストランなどに卸している。「本当はもっと生産能力はありますが、たくさん納入しても、レストランは使った分しか払ってくれないので、残りは捨てることになる。無駄を省くために、昔からのつきあいのあるお客さんを中心にやらしてもらっています」。
複雑かつ細心の注意が必要な作業なので、詳細は古田さんに直接問い合わせることをお薦めしたい。
日系パラセ・ホテルへ戻る車中「来年はオランブラ!」など、早くも次回が待ち遠しい参加者の楽しそうな声が響いていた。=連載おわり=(深沢正雪記者)
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