2月21日(金)
(サンターナ・デ・パルナイーバ発、小林大祐記者)サンパウロ市から三十五キロ離れたサンターナ・デ・パルナイーバ市で、日常雑貨などを二レアル程度で売る「一・九九ショップ」を経営していた日系老夫婦が無許可で銃器、弾薬、火薬などを販売していたとして十四日、同市警察に現行犯逮捕された。連行されたのは店主カワモト・タクロウ(六四)、妻トシコ(六一)の両容疑者。二人の身柄は署内に三日間拘束され、取り調べを受けた。現在は保釈金を払って解放されている。なぜ、殺人などの犯罪につながる爆発物の密売に携わっていたのかー。現地で取材した。
町の旧市街である保存地区ではもうカルナヴァルが開幕していた。十六世紀の名残りが漂う、コロニアル様式の家が立ち並ぶ。ここで行われる「聖体祭」はブラジルで二番目の規模になるという。
容疑者夫婦の店は町の外れ、二つの街道が交差する場所にあった。この日は固くシャッターが閉められていた。軒隣には娘の一人がやっている美容室が並び、ここにも人影はなかった。 通り向かいには親族が経営するバールがあった。こちらは特に何も変わりない様子で営業していた。訪れる客で、事件に触れようとするものはなかった。
親族によれば、容疑者夫婦とは事件以来、連絡が途絶えており、現在二人が身を寄せている実娘の携帯電話も電源が切られているという。
この親族は連行されるのを目撃している。押収物も確認した。しかし、「銃器は護身用に一つあっただけ。報道にあったように銃器の販売はしていないはず。メディアが面白がっておおげさに書き連ねただけ」
ただ、銃弾、火薬の販売が行われていたことは認めた。警察は拳銃の弾二千六百四十四箱、弾丸用鉛二十キロ、爆薬二・五キロ、黒色火薬(発射薬)三・七キロのほかに、起爆薬などを容疑者の家宅から押収している。
「サンパウロ市の問屋街三月二十五日通りから、チラデンテス通り寄りの場所にある、顔見知りの銃器店から仕入れていたと聞いている。『危ないからやめて』と何度も言っていたのですが」と漏らした。
「一・九九ショップ」は三年前、娘二人が出稼ぎで働く日本から帰国した後に開店した。それ以前は同じ場所で、兄弟らと雑貨店を切り盛りしていた。界隈にはほかに日本人がおらず、知られた存在だった。
背後は山野の広がる地域。狩りを目的に、火薬や銃弾を求める客は少なくなかった。恐らくそこに狙いをつけて販売に踏み切ったものと考えられている。罪の意識は薄かった。
サンターナ・デ・パルナイーバ警察のルイス・ロベルト・ファリア署長は「容疑者は罪を否定しているが、無許可販売が違法であることは知っていたと思う」と本紙の取材に対し、答えた。
取り調べのため、身柄は拘束したが、「高齢だし、初犯。バルエリ市(隣町)の留置所に送るつもりはなかった」、「容疑者は別に〃ヤクザ〃ではない。大きく報じられていたが、ただ、売っていたというだけの話だ。可哀想に」などと署長は終始、容疑者を弁護する調子だった。
発端は一カ月前に起きた殺人事件にあった。捜査を進めていた同警は、凶器となった拳銃に充填されていた弾の出所を探ったところ、犯人への事情聴取から、容疑者二人の店が明るみに出た。
署長はこの時点ではまだ、「まさか日本人の老人がそんなものを扱っている訳がない」と犯人の自供を疑っていたが、客を装った私服警官を店に送り、銃弾を求めさせたことで事実が発覚したという。
また、逮捕時に自宅から現金三万レアルがパネトーネの入れ物から見つかったが、容疑者は「これは最近不動産を処理して得たものだ」と主張している。