2月27日(木)
カラオケ大会は八〇年代はじめに、ぽつぽつと現れてきた。八〇年代後半に、ABRAC(ブラジル日本歌謡協会)やUPK(サンパウロ・カラオケ連盟)など、歌謡団体が組織されるに連れて、増加。九十年代に入って一気に増えた。
上岡正雄UPK初代会長は、「今や、毎週末に四つ五つ、カラオケ大会が開かれるのは常識になった」と、語る。サンパウロ市内近郊合わせて九カ所で、カラオケ大会が行われたこともある。
一日会場を借り切って、大会を開くと、四千─五千レアルかかる。が、出演料をとり、広告入りの冊子を作成して販売すれば、黒字に転じる。
「大会をやるためにグループをつくる人もいる」。(上岡初代会長)
サンパウロ市内だけで、カラオケ教室は六十─七十、愛好会は百二十を数え、毎週末にのべ五千人が大会に出場するという。
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日伯文化連盟(上原幸啓会長)は、カラオケブームに便乗しようとしている。文化講座のひとつにカラオケを加える方針。ある程度の生徒数の確保は望め、経営改善にもつながると、期待もかかる。
日本語を学ぶ動機のうち、アニメと並んで、多いのがカラオケ。成人で十人のクラスなら、数人が歌謡教室に通っていたり、カラオケボックスの常連だという。一年ほど前に、理事会に議論が持ち込まれた。
「歌の歌詞まできっちり教えれば、日本語の語彙が増える」、「日本語を学習するきっかけになる」という積極派から、「あまりに大衆的でアリアンサの格が落ちる」、「演歌の歌詞には、どぎつい文句もある」という消極派まで議論百出だ。
越智清忠事務局長は、「実現させる方向で話が進んでいる」と、前向きな姿勢を見せる。
ただ、問題も多い。まず、騒音。隣で授業を行っている間に、大音響でカラオケをやられたのでは、迷惑だ。当然、生徒のいない時間帯になる。
次に、専門の講師を雇用するのか否か。唱歌や童謡を授業に使用する教師はいる。歌まで教えることは、これまで、あまり例がない
演歌に流れる人生哲学まで、踏み込めば、生徒がついてこないとの懸念もある。
地下鉄駅に近いヴェルゲイロ校で、カラオケ教室を開きたいところだ。様々な条件を考慮すれば、現在改装中のピネイロス校になりそうだ。
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ドイツ観念哲学で、文化は、「理念的な目標を目指す精神によって生み出された所産」(シューラー)であり、「個人の人間性からあふれ出る自由な目的と行動により支えられるもの」(ディルタイ)。教養的、知的なものとされる。
羽田宗義日伯音楽協会顧問(文協クラシック音楽委員会副委員長)は、「日本国内外で広く、カラオケは愛されている。立派な日本文化だ」と、主張する。
人類自らの手で築いた有形、無形の成果とでも文化を位置付けるなら、カラオケもその範疇に入れても差し支えないのだろう。
(古杉征己記者)
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