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カルナヴァルと日系人(6)=フロール・ダ・ペーニャ=囃子響かせ笠戸丸行進=「リオで大江山の鬼行列」と構想

3月1日(土)

★リオに神楽を!★
 移民七十五周年、一九八三年は日系人とカルナヴァルの関係において画期的な年だった――。日本移民をテーマにしたバロッカがパレードしたのと同じチラデンテス大通りに、なんと「笠戸丸(第一回移民船)に乗った神楽」も登場していた。
 「いずれは本場リオのカーニバルに神楽を出したいと思っていたので、まずはサンパウロで予備に場所を踏んでみようと思ったんです」。ブラジル広島神楽保存会会長の細川晃央さん(七五、広島県山県郡加計町出身)は目を細めながら回想する。
 「神楽は平和のシンボルなんです。その時々の天皇の命をうけて闘い、世を平静に保った歴史が舞いにしてあるわけです。健康、家内安全、五穀豊穣なんかを祈念する行事には、必ず神楽舞をやって、世の中を鎮める、いうか、落ち着くように祈る。そういう昔の文化があるんだいうのを、皆さんに披露するのはいいんじゃないかと思った」
★最盛期の試み★
 一九七四年に、十八人の有志が手作りで太鼓や小道具を作ることから始まった神楽団は、この頃には「八岐大蛇(やまたのおろち)」「大江山」「鐘馗」など六つの題目に習熟し、日本の郷里からたくさんの衣装や面をとりよせ、最も活力のある時期を迎えていた。
 現在は消滅してしまったが、当時のフロール・ダ・ペーニャはかなりの勢いのあるエスコーラだった。日系人の多いサンパウロ市ヴィラ・カロン区にあったことから、白羽の矢がたった。細川さんらが直談判にいくと「待ってましたとばかりに飛びついてきた」。
 「ただでさえ優勝争いをするようなところだったから、それにプラス我々がでれば優勝間違いなしと踏んだんでしょう」。ただし、七十五周年をテーマにしていたわけではなかった。
 「サンバの賑やかしに出る、訳の分からないもんじゃない、ちゃんとした神楽を見せようとしたんです」。それには舞台(山車)が必要だった。山車(カーロ・アレゴリコ)を出すなら、いっそのこと笠戸丸にしようと、とんとん拍子にアイデアは固まった。たまたま山車の土台にするトラックを借りにいった日系運送会社の社長が「わしのパパイも広島から来とるけえ、運転手付きでただで貸しちゃろう」と提供してくれた。
★鬼囃子はサンバに合う★
 神楽団には大工二人、ペンキ屋、電気屋がいたので、山車は職人の手作りだった。大型トラックにベニア板で船の枠を作り、布を巻いて色を塗った。運転席の上に船首がはみ出し、そのすぐ後ろにドラム缶で作った煙突、操舵室が続き、その後ろが舞台になっていた。
 当日、ライトに浮かび上がった笠戸丸は想像以上のできだった。煙突からは煙をもくもくと出した。「前から見あげると、たまげるような、笠戸丸の、ほんとの船みたいでした」と述懐する。
 山車上の囃子四人(大太鼓、小太鼓、笛、ちょうがね)はエンレード(テーマ曲)に調子を合わせた。「テンポが早い鬼の囃子は特にサンバに合う」。重厚な本物の神楽衣装をつけた鬼、侍、姫ら十二人が汗だくだくになりながら、交互に舞った。「デタラメでなく、順序だってやった。見ている人が、神楽とはこういうもんだって分かるように」。
 操舵室の船長らはリベルダーデ商工会のメンバーに助っ人を頼み、山車には合わせて約三十人が乗り組んだ。その後ろにはヴィラ・カロンの日系人らが誘い合わせて二百人ほども続いた。
 審査結果は「残念ながら優勝ではなく中ほどだった」。でもリオへの手応えは十分だった。
 ★サプカイに鬼行列★
 「サンバに匹敵するんだから、リオでやるんだったら〃大江山の鬼の行列〃を出していったらどうかな、と前から思いよったですよ」と構想を語る。「山車は使わず、鬼を五十匹ぐらい。それから姫を二、三と、侍が三人ぐらい。サンバに合わせて鬼の所作(踊り)をして、道中ずっと歩くわけですよ。ほいで、審査員席の前あたりで大きな輪になって、姫がまわって酒をついで、酒盛りの所作をする」。
 ただし本物の衣装は重くて厚いので、「ビカビカした代わりのもので衣装をこしらえて、鬼棒は普通より派手なやつを反物の芯に白赤のテープを巻いてこしらえたら面白いんじゃないかと思ってました」。
 カルナヴァルの殿堂、リオのサプカイに大江山の鬼行列が舞う――。そんな一世の熱い想いは、カリオカ(リオ市民)を熱狂させることなく、ついえてしまった。八三年以降「急に、我々より年の多い人がバタバタと病気になったり、死んだりして力がなくなったというか…」という状態になったために実現はできなかった。デカセギに行って帰ってこない二世団員もおり、若い後継者がなかなか育たないのが現状だ。
  ■一世の試み■
 高度な所作の習得を必要とする神楽団は、コロニアが誇る貴重な存在だ。その神楽団が最盛期にカルナヴァルを目指していた。ブラジル人に日本の伝統芸能を見せようと、一世側からエスコーラに提案した。招待されて二世主体で参加したバロッカ、一世主体で企画を持ち込んだ神楽団。七十五周年という節目に相応しく、ブラジル社会とコロニア双方からの試みが行われていた時代だった。
   (深沢正雪記者)

■カルナヴァルと日系人(1)=「ボヘミアンな父でした」=日系初のサンビスタは戦前移民

■カルナヴァルと日系人(2)=見ると出るでは大違い=「日本人にサンバが分かるの?」

■カルナヴァルと日系人(3)=日系初のカルナヴァレスコ=ヴァイ・ヴァイで2度優勝

■カルナヴァルと日系人(4)=サンバ魂は三世から!?=両親大反対だった大衆音楽研究

■カルナヴァルと日系人(5)=バロッカ・ゾーナ・スル=日本人にもできる=『移民75周年』で仲間入り

■カルナヴァルと日系人(終)=ヴァイ・ヴァイ=移民90年忍者と芸者とラジオ体操=日本民族文化からブラジル民俗へ

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