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越境する日本文化 野球(1)=日本で花咲く「ヤキュウ」=日系人トリオが甲子園に

日系社会 ニュース

3月4日(火)

 二〇〇×年八月×日、阪神甲子園球場。
 全国の高校球児にとって「聖地」ともいえる大舞台の頂点に、異色のチームが登り詰めた。
 九つのポジション全てをブラジル人留学生だけで構成する○×高校が、決勝で甲子園常連校の名門、PL学園に八対〇の圧勝。ブラジル国旗を手に、三塁側の観客席を埋め尽くしたデカセギを喜ばせただけでなく、ネット裏に陣取ったプロ野球のスカウトらをもうならせた。
 その日、日本の夏の風物詩はブラジル人のフェスタと姿を変えた。
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 これらの話は必ずしも夢物語ではない。
 日本高野連のルールブックによると、高校野球の選手登録に国籍による制限は存在しない。卒業を目的として在校している生徒は大会への参加資格を持つ。「教育の機会均等に反する」というのが、高野連の外国籍選手に対する見解だ。現実的にはあり得ないが、ベンチ入りする全十六人が外国人でも許される。
 過去八十四回の甲子園の歴史をひもとけば、一九一六年の第二回大会では、優勝した慶応普通部に米国国籍のジョン・ダン一塁手が登場。近年では九九年の選抜大会に、日系三世の森岡次郎投手(明徳義塾)が出場しているほか、一昨年はベトナム国籍のグエン・アン投手(東洋大姫路)が、甲子園の土を踏んだ。
 早くから外国籍選手にも門戸を開いていた高校野球だが、昨年初出場を果たしたあるチームには、史上初めて一校に三人の外国籍選手が在籍。主力としての活躍は「黒船来襲」にも似た衝撃を高校球界に与えた。
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 カキーン。
 金属バット特有の打撃音が場内に響きわたると同時に、ボールは甲子園右翼席上段に突き刺さった。
 百二十メートルを超えたライナー性の本塁打に笑顔を見せた一八六センチの大柄の高校生は、胸元の「日章学園」の文字をギュッと掴み、チームへの愛着心をアピール。その姿は、母国ブラジルでプロサッカー選手が見せる仕種そのものだった。
 昨年八月十二日、日系ブラジル人三人を擁し初出場を勝ち取った宮崎代表の日章学園は、緒戦で静岡代表の興誠と対戦した。
 八対九で惜敗したが、八回裏に四番の瀬間仲ノルベルトが放った一打は、ブラジルパワーを見せ付けた。 瀬間仲に加え、剛腕エースの片山文男、二年生ながらセンス抜群の小笠原ユキオら三人の日系人が、攻守の軸としてチームを牽引。 〈コウシエンニデタイ〉という幼いころからの夢を見事に父祖の祖国で実現させた。
 それは同時に、ブラジルの大地で日系移民が播き続けた「野球」という名の種が、遠く離れた日本で「ヤキュウ」という花を咲かせた瞬間だった。
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 移民初期の日系人にとって数少ない娯楽の一つだった野球。日系、非日系の枠を超え、ブラジルにも着実に浸透しつつある「ヤキュウ」の今と昔を探った。
(つづく、下薗昌記記者)

■越境する日本文化 野球(1)=日本で花咲く「ヤキュウ」=日系人トリオが甲子園に

■越境する日本文化 野球(2)=ブラジルの起源は米国=日系人の娯楽として普及

■越境する日本文化 野球(3)=「新来」移民も参加=全伯チームで早稲田に善戦

■越境する日本文化 野球(4)=近代を持ち込んだ「野球移民」=完全試合投手も来伯

■越境する日本文化 野球(5)=日伯交流の陰にサンパウロ州球連=底辺拡大めざす新会長

■越境する日本文化 野球(6)=世代を超える「野球」=非日系への普及も進む