3月18日(火)
国際協力事業団(JICA)が九六年から行っている『日系第三国専門家派遣事業』は「中南米等のスペイン語、ポルトガル語圏において高度な知識、技術力を有した日系人を専門家として活用し、技術協力をより一層効果的に実施する事業」として関係者の注目を集め、評価も高い。ブラジルからは〇三年度までに三十六人が受け入れ対象国に派遣されている。現在ペルーに派遣されている専門家を訪ね、その活躍を追った。
中級住宅地と商業地帯、その両方の顔を持つミラフローレス地区にある国際事業団(JICA)ペルー事務所。高さ五メートルはあろうかという青い塀の上には金網、鉄条網がそびえ立ち、監視塔がその異様さを際立たせている。
事務所入り口に取り付けられた鉄柵とビデオカメラを通過した来訪者が事務所内に入るまでには五つのドアを経なければならない。 まさに刑務所並みの厳戒体制。これを理解するには、九一年まで遡らなければならないだろう。
リマの北、約六十キロに位置するワラルにある野菜生産技術センター(当時JICAがプロジェクト方式で技術協力を実施中)で宮川清忠リーダー、金良清文調整員、中西浩専門家がセンデロ・ルミノソによるテロ攻撃により殺害された事件が九一年七月に起こった。
筧克彦ペルー事務所所長は事件当時、本部の安全係課長を務めていた。しかし、八十四年から四年間ペルーに滞在しており、特に宮川リーダーとは個人的に親しかったという。「あの事件に関しては特別な思いがある。今でも忘れられないし、決して犯人たちを許すことはできない」とテロリストへの憎悪を隠そうとはしない。
事件後、日本政府は専門家、青年海外協力隊の総引き上げを決定。当時、五十人近くいたボランティアはペルーから撤退した。
事件から五年、ようやくJICAの活動も正常化するかに見えた九六年日本大使公邸がMRTAに占拠されるという事件が起きる。
約十二年間、ペルーにボランティアは派遣されておらず、現在は一人の長期専門家を含めた四人が滞在するのみである。
しかし今年一月には、川上隆朗JICA総裁がペルーを訪れ、トレド大統領とルイス・ソラリ首相と懇談、「両国の友好関係を確認した」ことからも筧所長は「今年から事業内容も大きく変わるのでは」と期待する。
筧所長は「ペルー、特にワラルには日本人を再び派遣し、再活性化を図りたい」と語り、「そうでなければ亡くなった三人が浮かばれない」と続ける。
日本から専門家が派遣できない状況のペルーで第三国専門家派遣事業は特殊な意味合いを持ち、関係者の同事業への期待は大きい。
◎日系第三国専門家派遣事業とはー
同事業は九四年度から予算化された第三国専門家派遣事業の一形態に位置づけられ、協力対象の開発途上国に他の開発途上国の人材を技術協力専門家として派遣するもの。九六年に中南米地域で始めてアルゼンチンからボリビアに鮭鱒養殖の分野で専門家が派遣されている。
同事業は「派遣先国と専門家の所属国との環境、技術水準、文化、言語などの同一性または類似性により、技術移転がより適切に、効率的に行われるもの」として関係者から注目されている。
派遣国は原則としてブラジル、メキシコ、アルゼンチン、パラグアイ。受け入れ対象国はエル・サルヴァドル、グアテマラ、コスタ・リカ、コロンビア、ジャマイカ、チリ、ドミニカ、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、ボリヴィア、ホンデュラス、モザンビークが指定されている。(堀江剛史記者)
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