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「環境」「戦争」を取上げる=サ日本人学校 名取理事長、卒業式で告示

4月4日(金)

 名取力ブラジル東洋紡績社長が、去る三月二十日、異動で帰国した。同氏は商工会議所で専任理事、相互啓発委員会委員長、繊維部会部会長をつとめ、サンパウロ日本人学校では理事長として経営を担った。帰国前、十七日、日本人学校で卒業式が行われ、理事長告示を述べた。卒業生たちが、教室では聴くことができなかった、示唆に富んだ話だった。内容は三つ。「地球環境の保全」「戦争と平和」「世界中に不幸な人達が存在する現実」を念頭におきなさい――。
 告示の要旨はつぎのとおりだった。
 地球を壊すものが二つある。一つは森の木をやたらに倒して畑や牧場や町にしてしまう乱開発。例えば、アフガニスタンはつい八百年前までは緑豊かな国だった。いま、はげ山、荒れ地。私は、蝶や蛾が好きだ。この仲間は世界に十七万種類もいて四億年もの長い間地球環境と仲良く折り合って暮らしてきた。ところが、現代の人間が誕生してからせいぜい二十万年、特にこの数百年の間に急速に環境を破壊している。蝶は森を伐ってしまうと生きていけない。蝶の生きていけない地球はやがてほかの生物も、そして人間も生きていけなくなる。
 もう一つは戦争。天文学者のカール・セーガン博士によれば、広い宇宙に地球のような星は無数にあるが、人間のような高度な知性を持った生き物同士の戦争で滅んだ星が幾億もある。この半世紀の間にも、信じられないような人間同士の殺し合いが続いてきている。
 第三に、世界中の環境破壊や戦争のために、現実に多数の難民や飢えた人、病気で苦しむ人をつくりだしている。そうした人を一人でも多く救うように努力すること、少なくともそのような人々の存在を世界中の人が認識すること。
 日本とアメリカの若者の意識を調べたある調査では「あなたの人生における最も大切なことはなんですか」という問いに対し、「高い社会的地位や名誉を得る」と答えた若者がアメリカの四〇%に対し、日本はたったの一%。「社会や人のために尽くす」はアメリカ四〇%、日本一〇%。これと反対に日本の若者の六〇%が「人生を楽しんで生きる」と答えている。アメリカの若者でこう答えたのは四%だった。
 これは大変残念なことだ。なんとも情けない。中学卒業のみなさんは、これから日本に帰る。私が述べた三つのことをいつも心の隅に持ち続け、これからいろいろ学んでほしい。