4月23日(水)
「治安面に関しては絶対の保証は出来兼ねます」「では今年は農業実習生の派遣を休止します」
ブラジル福岡県人会(渡辺一誠会長)が福岡県に送った文書に対し、同県庁が二十四年間続いている農業実習生の派遣を見送った件を巡り、県人会内部では執行部の引責問題にまで発展している。
この事態に、二月の総会で執行部から納得出来る説明がなかったとする同会顧問・相談役四人は会長以下理事全員の辞職を要求。二十二日、来社した脇田勅顧問は「伝統ある派遣事業が休止に追い込まれたにも関らず、文書を送付する前にわれわれに何の相談もなかった。まったく常識に欠ける行為」との認識を示し、来月二十四日に臨時総会を開く準備を進めていると明かした。県人会員への説明責任を果たすよう改めて求めるとともに、現執行部への信任を問う構えだ。
農業実習制度は今年で二十五年の節目を迎え、実現していれば二月の総会で懇談の場が持たれるはずだった。県人会員も恒例の交流会を楽しみにしていた。しかし当日、実現しなかった理由が議題に取り上げられることもなく、素通りされたという。
「休止の話題に触れれば混乱を来すと考えた会長の配慮」と県人会事務局長はみる。
臨時総会の開催に向けて動き出した顧問・相談役によると、事業休止のきっかけは、渡辺会長ら執行部が派遣先の農場で強盗事件が相次いで起こったことを問題視し、「治安に関しては絶対の保証は出来ない」などと県側に報告したことにあるという。これを聞いた同県の農業技術課では実習生の研修がすでに始まっていたが、「一時取り止めたい」と申し入れてきた。
脇田顧問は一連の流れを振り返り、「ブラジルの治安問題はいまに始まったことでもないのに。執行部には一度相談して欲しかった」と残念がる。
「県人会員の気持ちを汲めば今年、節目を迎えた派遣事業を実現させてから再考すべきだった」という現副会長の一人は「このいざこざでわたしを含めた何人かの理事が辞職する意志を固めている」と、理事会が事実上、臨時総会を前に空中分解するとの見方を強めている。
しかし渡辺会長、矢野ペドロ名誉会長、数人の副会長はこの件についての非を一切認めておらず、辞職する意志はないようだ。電話取材に対し渡辺会長は「県側には今後も続けて頂けるように文書でお願いしているし、問題はない」と答えている。
「一度安全保証は出来ないと言った限り、(復活は)難しいだろう。ブラジルの治安が良くなる見通しもないのに」。そう話す前出の副会長は「いずれは県人子女の母県留学派遣にも響いて来ないか。もし予算の都合で枠を削減されても、こちらが受け入れていないならば、向こうに強く文句も言えない」と続ける。
かつて福岡県人会と共同で派遣事業を行っていたことのある宮崎県人会の吉加江ネルソン会長は「宮崎県側も治安問題を最近心配している。そのためわれわれでは比較的安全なアマゾンに実習先を移すなど安全への配慮には気を使っている」と話している。