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ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(9)=フジモリが分らない―=戸惑いながら弁護する声も

5月6日(火)

 今年三月三日付の『エル・コメルシオ』紙の一面をフジモリが飾った。彼が紙面を飾るのは珍しいことではないが、いつもの批判記事とは少々雰囲気が違っていた。
 フジモリがゲスト出演した日本のバラエティー番組を取り上げたもので、冷徹なイメージだった元大統領はパーマをかけ、増えた顔の皺はいささか生活の疲れを感じさせる。
 日本大使公邸事件の経緯を話すフジモリ前大統領。感心する共演者。最後には「常に強さを持って、前進することが大切」と視聴者に向かってメッセージを送った、と記事は締めくくっている。
 「ガッカリした」。多くの日系人が漏らした感想である。   
 「フジモリは何を考えているのか分からない。まるでスター気取りじゃないかー」とペルー新報スペイン語版元編集長の比嘉リカルド氏は憤りをあらわにする。
 約七年間、国会議員を務めた経験を持つ、松田サムエル氏(二世=写真)は、苦笑しながら話す。「写真を修正したのかと思った」
 このニュースは密かにフジモリを支持しているペルー国民を幻滅させ、〝軽率〟な前大統領が多くの失笑を買ったことは日系人の肩身をさらに狭くさせた。
 現在、国内はおろか国際的批判の矢面に立たされているフジモリは我々日系人を見捨て、日本でテレビに出て笑っているー。
 フジモリは『日本から』という個人のホームページに論文や意見を載せているがその多くが現在のトレド政権の批判であったり、自分の政権中の功績などに終始している。
 「メールは当局の検閲など不可能だ。なのに何故フジモリは説明しない?」比嘉氏を始め、誰もが口にする疑問である。
 フジモリは何を考えているんだ、わけが分からないー。
 フジモリの印象を多くの日系人は「よく分からない人」と表現する。
 日系人社会とつきあいが少なかったフジモリの素顔を知る人間と今回の取材で出会うことはできなかった。
 九一年に厚生大臣を務めた山本ビクトル氏はフジモリの甥や姪たちの主治医であった。その家族とつきあいもあったが、「彼は自分をださない人だったし、よく分からない」と首をかしげる。 
 フジモリの日系社会に対しての感情も誰にも分からない。松田氏も「彼とは、日系社会のことについて話したことはない。日系人を信頼はしていたようだけどもね」
 あるインタビューでフジモリは語っている。「自分は友人に特別のはからいを要求しないし、友人にもそんな配慮はしません」
 「フジモリは日系社会に何の恩恵ももたらさなかった」と非難するある一世に出会った。
 「日系の劇場に使う椅子を日本からの輸入した際、文化事業扱いにしてくれなかったため、多額の税金をかけられた」「日系団体に何の援助もしてくれなかった」などだ。
 この意見に対しては多くの二世がフジモリを弁護する。
 「そんなはからいをフジモリが取っていたら、状況は今程度のもので済んではいない」。
 日本のNGO団体が、「フジモリをペルーで裁判にかけさせるべきだ」とフジモリ帰国運動を起こしていることについても、多くの二世は否定的な立場を取っている。
 「日本人は何も分かっていない。この国で公正な裁判なんてありえないし、裁判はおろか、帰国したら、確実に殺される」
 そして、取材した全ての二世がはっきりとした口調で断言する。
「フジモリは金に関する汚職だけは、絶対にしていない」 
それは、そう信じることによって、日系人の築き上げてきた「信用」という砦を守っているようでもあった。  (堀江剛史記者)

■ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(1)=血と地の宿命の中で=懊悩する日系社会

■ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(2)=「フジモリ時代が懐かしい」=意外に多い支持派庶民

■ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(3)=「目立たぬように―」=1940年暴動 覚めやらぬ恐怖

■ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(4)=怖れとまどう日系社会=大統領当選の不安な前夜

■ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(5)=当選後も揺れ動く心情=祝電を喜べない地元日系人

■ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(6)=「フジモリイズムは永遠に」=選挙支援事務所 今年二月に開設

■ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(7)=フジモリ政権の遺産=捨てられた街パチャクテ

■ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(8)=亡命後 再燃する日系差別=「帰ってくるな」と語る2世

■ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(9)=フジモリが分らない―=戸惑いながら弁護する声も

■ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(終)=不可能に近い復帰だが=なんでも起こり得る国