5月29日(木)
非日系人も将棋の世界へ――。ブラジル将棋連盟が一世の高齢者で占められる中、ジョマール・エゴロフさん(マリンガ市在住、三八)は異色の存在だ。
ポルトガル語による初級者向けの入門書がこのほど、ようやく発刊され、伝統遊戯の普及活動は始まったばかりだ。
本業はチェスの指導者。これまでに六度、パラナ州でチャンピオンの座を手にした。各州のトップが集まって争う「ETAPA DO BRASIL」にも出場するなど数々の戦績を残す。
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日系二世のリカルド・イナムラさんと知り合って将棋と囲碁を習ったのが、この世界に入ったきっかけ。四年ほど前のことだ。
始めは、囲碁に興味を持った。現地の将棋クラブに通って、二人でよく碁を打っていた。
が、ドイツ系の妻を持つイナムラさんが急に、ドイツに転居することになり、唯一の碁仲間を失った。
クラブでは、ほかに碁を楽しむ人はおらず、エゴロフさんは将棋へ転向せざるを得なかった。
REI(王)を最初に取った側が勝者だという点は、チェスも将棋も同じ。だが、駒の動かし方は異なり、「両者をよく混同した」。
チェスは相手の駒を「殺す」が、将棋は相手の駒を奪ってこちらの持ち駒とし、それをまた活かす―と、マリンガの先輩でブラジル・アマ五段の嶋五郎さんが将棋の魅力をエゴロフさんに淡々と説いた。
チェスと将棋の類似点や相違点をだんだん理解するにつれ、「将棋はチェスの戦法の参考になる」と、感じ始めた。
そして、将棋にのめりこんでいくように。日本文化をもっと知りたいと、日本語学校にも通う。
半年で初段に昇級、その後もとんとん拍子に四段までのぼった。
ブラジルには六段が二人、五段が十六人おり、両レベルが最高位になる。トップレベルまで、もう一息のところだ。
将棋連盟の幹部の一人は、「彼は本当に強いよ」と、目を見張る。
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チェスの生徒が十月に世界選手権(ギリシャ)に出場するので、仕事が忙しい。 そのため、現在、将棋クラブに通う回数は以前よりも減った。でも、「大会には出場したい」と、時間の合間を縫って、サンパウロまで出てきた。
長女(七つ)はチェスを学んでいる。九歳になったら、将棋に転向させるつもりだ。
エゴロフさん本人の夢は、「日本で将棋を指すことだ」という。
(古杉征己記者)
■将棋 新風起こせるか(1)=「強制せずに育てたい」=祖父、孫の自主性尊重
■将棋 新風起こせるか(2)=チェスから入ったエゴロフさん=トップレベルにあと一息