5月30日(金)
物腰は柔らかいが、内に秘めた思いは誰にも負けないー。そんな印象を受けるのが、高根富士雄さん(五五、長崎県出身)だ。ベロ・オリゾンテ市(MG)に居住し、苗木や芝生の売買を生業としている。
ブラジル・アマ五段。オーソドックスな戦型で、堅実に攻めるタイプ。将棋連盟の幹部は、後継者の一人として期待する。
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王将戦(五、六段)予選リーグ第一戦。相手は、優勝候補の筆頭、青木幹旺さん(六段)。初戦で嫌な相手にあたった。
案の定、序盤から青木さんのペースで対局は展開。苦しい立ち上がりだった。
好カードの組み合わせとあって、多くの人が周囲で観戦。自然に力がこもった。負けられない―。
中盤に差し掛かって、様相は一変。高根さんが優勢に駒を進めることに。
強風が吹いて、掲示板が倒れ、横に座っていた青木さんに直撃。相手の気分が一瞬乱れたのだ。その隙を逃さなかった。
が、青木さんは、ブラジルに二人しかいない六段の一人。簡単に勝たせてくれるわけはない。最後の最後まで、必死の攻防が続いた。
青木さんがついに投了、価値のある金星を挙げた。
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駒の動かし方を覚えたのは十歳のころというから、将棋との付き合いはかれこれ、四十五年ほどになる。
近所に住む大人たちがよく軒先で、将棋を指していたのが心に残っているという。
実家に棋譜なんかが記載された書籍があって、それを読んで勉強した。
学生時代には東京、横浜の将棋クラブに通った。海外旅行も好きで、七三年に最後の移民船、にっぽん丸で兄と渡伯した。農業移住でミナス・ジェライス州内の借地に入った。もちろん、この時、将棋盤も持ち込んだ。
「日本で鍬を握ったことなんか無かったのに、ブラジルにきて野菜を栽培した」。口に出してこそ言わないが、相当の苦労があったようにみえる。
日々の農作業を慰めてくれたのが、将棋。「暇な時はいつも兄と将棋を指していた」と、当時を振り返る。
月刊誌、「将棋世界」を日本から毎月、取り寄せて、腕を研く。真摯な姿勢は昔も今も、変わらない。
将棋の魅力は、「忍耐と時間がいるけど、自分で考えること」だ。最善手の一手一手には、遊戯以上の特別な思いが込められている。 (古杉征己記者)
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