6月10日(火)
アリアンサ、バストス、チエテなどの移住地建設に当たって奔走した輪湖俊午郎(一八九〇―一九六五)。移住前、十六歳にして英文学の勉強を目的に渡ったアメリカで、写真技術を身につけていた事実は案外知られていない。
その輪湖を祖父にもつ画家の工藤ジェームスが、十日からサンパウロ市内のデコ画廊で、写真を用いた作品二十数点を発表する。「石、箱、希望」展だ。
昨年個展で行ったドイツで拾ってきた小石を、「箱」や「枯れ木」の素描とともに置き並べたところをカメラで映した。すべて白黒写真だ。
採集地はライン川のそば、季節は秋。木々の葉は落ちていた。「石はだれの目にも止めずにあった。でも、ここまで丸く平らになったのだから歴史が積もっている」と工藤は話す。「どの石にも一本の白線が模様として入っているので驚いた。何かできるのではと思った」。石の線を素描の一部に利用した。遊び心ある表現に懐かしさを覚える。
子供時代。石拾いに熱中したあげく、これを並べて遊んだ。その後は「箱」に大切に保管した。そんな思い出はだれにもある。工藤の場合は、ライン川の記憶が刻まれた「線」に、自分の思い出を結んで見せた。 あえて絵画ではなく写真で表現したのは、祖父の輪湖、そしてカメラ屋を経営していたという父親と、作家自身のつながりを確認するためのような気がしてならない。
一九六七年生まれ、ペレイラ・バレット出身。
オープニングは午後七時から。七月十日まで。フランセーゼス通り一五三。電話289・7067。