6月12日(木)
帝王切開の落し穴
基本的に帝王切開は、逆子など医学的に自然分娩では母子の生命が危ぶまれる時に行なわれる。帝王切開で生まれた赤ちゃんは、呼吸困難など合併症のリスクが高いことは、あまり知られていないようだ。アメリカ産婦人科ジャーナル誌によると、メキシコシティの二十五病院で一九九一年、普通の体重の新生児死亡率を調査、帝王切開による新生児は経膣出産の二・五倍の死亡率という。
それでも、ブラジルでは医学的理由の有無に限らず、上流階級女性は帝王切開を望む。「経膣出産は、産後、性的魅力が減じる。帝王切開は安全で近代的、上流階級の選択肢」と広く信じられているらしい。世界保健機構は八五年、容認される帝王切開率の最高限度を一五%と定めている。しかし、ブラジルでは三六・四%(九三年―九七年統計)と最高値のチリ四〇・〇%に続き極めて高い。
ここまで帝王切開が普及したのには、(一)医療保健制度による病院への高率な経費弁済(二)忙しい医師にとって効率のよい分娩(三)自然分娩に対する世間一般の誤った認識――などがあげられる。財政上、教育上、そして政治上の要因が複雑に絡み合った異常事態だといわれている(資料提供「THE IDB」)。
自然分娩への回帰
JICAは一九九六年から五年間、保健省・セアラ州保健局とともにブラジル国家族計画・母子保健事業「プロジェット・ルース」を開始。日本から疫学や保健体育、栄養学、助産に関する専門家をセアラ州フォルタレーザ市に派遣した。機材供与費、ブラジル側専門家の日本研修費など計三億千四百六十七万九千円(約七百八十六万六千九百七十五レアル)を注入、避妊具使用促進や「人間的な出産と出生」概念の普及に全力を挙げた。
二〇〇〇年十一月には、セアラ州で「出産・出生のヒューマニゼーションに関する国際会議」が開かれた。講演やワークショップ、視覚的分科会などに二千人近くが出席。アジアや中南米、北米、欧州など世界二十五ヵ国以上から約二百人を集めたが、何よりもセアラ州民が千人以上を占めたこと。バイア州からも看護学部学生らがバスを仕立てて来場した。ブラジルにおいて、自然分娩への認識の高まりが実感できる出来事だった。
(門脇さおり記者)
写真=無駄な医療器具はない。自然分娩はゆったりとした空間で行われる
■―自然への回帰―奮闘する日系助産婦たち(上)=家庭的な雰囲気の中で=「毎回、感動して涙が」