6月13日(金)
ナッセール・ベン
ブラジルで蒔かれたパルト・ウマニザード(人間的出産)という小さな種。草の根の交流を通し、お互いを刺激しあって各地で芽ぶき始めている。
ブラジル政府保健省は二〇〇〇年六月、「プログラマ・ウマニザサオン・ノ・プレナタル・エ・ナッシメント(PHPN)」概要のなかで、(一)産前援助奨励――一億二千三百万レアル、(二)助産と出生活動への投資、組織編成など――一億三千四百三万八千レアル(三)出産援助にかかる費用の新システム――三億千万レアルをそれぞれ予算計上している。
サンパウロ市は現在、「ナッセール・ベン」というプロジェクトを推進。妊娠と出産に関する人間的権利や産前、出産期の診察に付き添い人を伴う権利、出産における母子死亡率の削減が基本理念となっている。市は、(一)妊婦が住む地域に産院を供給(二)必要な時はいつでも、妊婦と赤ちゃんの交通機関を確保(三)出産時に家族らが付き添いできるような場をつくり、妊婦が落ち着いた環境で分娩できるようにする――を約束している。
JICA、新たな試み
ブラジルは重い腰をあげて、ようやく自然分娩推進事業に取り組み始めた。しかし、その他の南米諸国はまだまだ遅れを取り戻せない。ブラジル・セアラ州への技術協力で実績をあげたJICAは、今年十月上旬、ボリヴィアの首都ラパスにおいて、「ラパス県・より良い出産のための医療ネットワーク強化プロジェクト」を開始する予定。モデル地区における「出産のヒューマニゼーション(人間的であること)」に関する戦略の実現を目指し、母子保健専門家を派遣するそうだ。
ラパス市は首都でありながら、保健事情は非常に悪いという。ボリヴィア政府が五歳以下の幼児と妊産婦に基礎的医療サービスを無償で提供すると確約していても、妊娠や出産時に医療機関を受診しない場合が全体の約四〇%を占めるという。そのため妊産婦や幼児死亡率が非常に高い。
予定される活動内容は(一)ワークショップ、セミナーの計画、実施(二)出産のヒューマニゼーションセンターを機能させる(三)モデル地区共同体が出産に関する情報を得る(四)人材、活動に対する助言――など。なかでも、最も期待されるのは日系人の母子保健専門家だろう。サポペンバ助産院のヴィルマ・ニシさんも候補の一人。同院には、国境を越えてボリビア人が子どもを産みに来ることもあるという。ヴィルマさんはすでに、ボリヴィア人サポートを手がけており、経験は豊富だ。
関係者は「ポルトガル語で話すから、スペイン語圏のボリヴィアでも受け入れられやすい。それに日本のきめ細やかな技術を会得している」と太鼓判を押す。日本とボリヴィア、ブラジルのパイプ役として、ヴィルマさんは大活劇を繰り広げるだろう。国境を越えて、赤ちゃんとお母さん、家族、そして助産婦が奏でる感涙のハーモニーが聞こえる日も近い。
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サポペンバ助産院(カーザ・デ・パルト・デ・サポペンバ)は二十四時間オープン、出産における産婦の出費はゼロ。責任者のマチウダ・ムタさんは、「自然分娩は貧困層のものと思っている人が多いけど、それは間違い。サンタ・カタリーナ州の裕福な人も来るわよ」。自然分娩を考えている女性、また、興味を持っている人は、電話・6702・0435(24H、無料)へ。明るく賑やかな助産婦たちが出迎えてくれる。
(門脇さおり記者)
■―自然への回帰―奮闘する日系助産婦たち(上)=家庭的な雰囲気の中で=「毎回、感動して涙が」