6月21日(土)
サンパウロ市近郊モジ・ダス・クルーゼル市のイタペチで、夢を追い求めながら木を植え続けている初老の日本人がいる。植林を始めてから約二年半が過ぎて、植えられた苗木が一メートルから三メートルほどに育ち、夢の輪郭が見えるようになってきた。宮城県出身の芳賀七郎さんだ。今年七十歳。
芳賀さんは、コチア青年第一次十二回生の一人として一九五八年に移住してきた。戦前移住のパトロンの農園で五年間働いて自立した。ブラジルに来て四十数年になるが、最初からイタペチに住んでいる。妻は二世の八千代さん。イタペチ地区における花卉栽培先駆者の一人として、ランを中心にいろいろな花を手掛けてきた。
イタペチはサンパウロ市の中心街から四十キロ前後と距離が近いので、その有利さを最大限活用して、都会に住む人々が週末などに家族連れで、気軽に自然を楽しめる場所を作ろう、という夢を抱いてきた。
たまたま、すぐ近くに住む日系農家が土地を譲っても良い、と言ってきたので、躊躇なくその土地(二十四ヘクタール)を購入して、夢の実現に着手した。
自然を守るために木を植えることにしたところ、ジャカレイ市で大規模な育苗場を経営している木下喜雄さん(山口県出身)の協力が得られた。これまでに植えた苗木は三十種五千本を越えている。この中には、木下さんの助言で、絶滅に瀕している樹種も含まれており、貴重な自然保護の役割も担っている。「農村では人が来るのを待っていてはダメだ。来たくなるような環境を作ることが第一だ。観光農園の発想だよ、ワッハハ」と芳賀さん。
それを裏づけるかのように、去る五月二十四日にはリベルダーデ歩こう友の会(細川晃央代表)の会員八十人が訪問して散策した。歩行者用の自然道も作られている。車が走らない安全な遊歩道である。今後の計画は、果樹を植えることととサボテン広場の造成だ。
サボテンを北東伯の乾燥地帯から取り寄せようと思っていた矢先の六月十日、リオ・グランデ・ド・ノルテ州のナタールに住む伊藤範夫さん(愛知県出身)が視察に訪れた。
伊藤さんの協力でサボテンを入手できれば、サンパウロ近郊でも乾燥地帯の雰囲気を体験することができるようになる。夢を持ち、ゆっくリズムで前進を続ける元気いっぱいの〃万年青年〃である。