「あなたは、あなたの祖父母四人の名前を知っていますか。生前どんなことをした人なのか聞いたことがありますか」―こう他人に問われたら、たいていの人は答えに窮するのではないか▼成人に日本語を教えている教師が、生徒たちにポ語ででもいいから、自分のルーツ(根、先祖)を子孫のために、書き残しておいたらいい、とすすめている▼できれば祖父母まで溯り(さかのぼり)、名前、どこで生まれたか、いつブラジルに来たか、どんな仕事をしていたか、さらに、日常何を考え、言っていたか、などを、少し丈夫なノートブックに書き記し、紙箱に入れリボンをつけて、誕生日などに、ボーロと一緒に子供たちに贈ればいい、というのである。ノートブックにはある程度の余白を残す。それは、子がその子に書き残すページとなる▼さきごろ、横沢幸子さんという、ゴアイス州クリスタリーナに住んでいる主婦(農場主の妻)が歌集を自費出版した。巻末には収録した歌のポ語訳が加えられていた。明らかに子孫を意識し、自身がブラジルでどのように生きたかを、文学作品(ポエジア)を通して伝えようとしたものである▼歌は、横沢さんの師にあたる安良田済さんによれば、「考え」を盛った移民の生活史である。歌でなくても覚書のような文でもいい。書き残さなければ、せいぜい親の名、その仕事くらいが子の記憶に残る程度で、イデンチダーデは消えてしまう。ルーツの記録を子孫のために実践したい。(神)
03/06/27