7月4日(金)
太平洋戦争後フィリピン・ルバング島から三十年ぶりに帰還した小野田寛朗さんが経営するテレーノス市(MS)の「ファゼンダ・オノダ」。千二百ヘクタールの牧場には千八百頭の牛があちこちで草を食んでいる。支配人の佐藤晋平さん(五四、福島県出身)はこの牧歌的な風景が広がる環境を活用。八年ほど前から非行少年の更生に取り組んでいる。これまで日本の中学生五人を受け入れた。いずれも、牛飼いとの生活の中で、「少年の心」を取り戻した。現在は諸事情で休止中だが、近々、再開させたい考え。
経営主の小野田さんから個人的に頼まれて非行少年を預かったのが、きっかけ。毎年一人と限定、全くのボランティアで受け入れてきた。
長髪で金髪。そして、目付きがきつい。少年たちから受けた佐藤さんの第一印象だ。
家族の一員として牧場での生活を送る。牛の見回りや除草、配管工事などが一日の主な仕事となる。
「最初は何もしないでボーっとしている」。それでいて、「虫一匹飛んでくると大騒ぎをする」。
馬を見ると、こんなに大きいのか、と目を丸くするのだという。
大自然の中でしだいに心が解放され、自主的に行動を始める。「一人にしたら、素直になるんです」と、佐藤さん。
「日本で吸っていたんだろうと煙草を差し出しても、『いらない』と、言って受け取らない。ピンガを飲んでもいいよと勧めても、口をつけない」。
馬の乗り方を覚え、走られるようになると、目が輝いてくる。牛の見回りに積極的になり、牛のへそのほうにつく虫も手でとるように。
仕事の後は夜遅くまで現地人とサッカーを楽しむ少年もいる。
佐藤さんは、「日本ではストレスの発散するような場所がないんでしょう。動きたくてたまらなかったんだと思います」と、少年たちの心理を読み取る。
滞在期間は三カ月から半年。帰国前には、「子供の目になっている」。帰国後は、多くが親の職業を継いでいるという。