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広がるアルツハイマー病=患者約100万人=早期発見・治療が大切


7月8日(火)

 【レビスタ・デ・フォーリャ誌】アルツハイマー病は現在ブラジルで、千五百万人の老人の七%、約百万人に広がっている。ここ数十年で罹患(りかん)率は一〇%増加したという。米国でもほぼ同じ割合の約四百万人がこの病気にかかっている。ブラジルのような高齢化が加速している国で状況は深刻だ。八〇年の調査では百人の子どもに対して十六人が老人だった。二〇〇〇年に老人の割合は二倍になった。今後二十年間でブラジルの老人は三千万人となる。「アルツハイマー病の治療や発病の遅延がなければ、百歳以上の老人の七〇%以上が患者となる」とサンパウロ総合大学(USP)の神経学者は話す。

 ほぼ四十年間航空貨物取扱者としてコンゴーニャス空港で勤務し、ヴァスピが五十年代に運行していたDC―3やスカンジアの爆音について話し始めた時のフラーヴィオ・デ・オリヴェイラさん(七七)の記憶はうらやましく思える。だが、現在の話となるとすべてが変わる。フラーヴィオさんは四十五年間連れ添った妻、セリアさんと四人の息子を時々認識できないのだ。
 五年前からアルツハイマー病を患うフラーヴィオさんの記憶は短時間で消えることが多い。最近は分単位で記憶がなくなる。昼食をとったことを忘れ、家政婦が誰なのか五分後に聞き、「家へ帰っていいか」と、外出を求める。
 同病は完治しない。ただ、発見が早ければ早い方がいいと医師たちは口をそろえる。薬物療法、神経と心のリハビリなどを複合して治療は行われる。症状が軽い場合、治療は生活の質を向上し、依存性を減らすことが目的となる。この段階では気分を刺激し、やる気を高める音楽療法が選ばれる。童謡や若者向きの歌は記憶過程を刺激し、人生の大切な場面を喚起させ、自己評価を高め、安心感を与えるという。
 「問題は多数の患者があとになってこの病気だとわかることだ。老人にはよくありがちだが、この病気が『年波のせい』と考えられ、診療の妨げになっている」と精神科医は話す。
 五月末にブラジルで初めて、神経の新陳代謝、つまり脳がどう機能しているかを測定するPETスキャンが登場し、初期の同病の診断を可能にしつつある。治療薬の分野では、ヨーロッパで使用されている同病の進行を食い止める薬が今年後半には医薬品市場に出回る予定だ。また、脳細胞を破壊するタンパク質に対抗する物質の生成を促進するワクチンの開発も報告されているが、脳炎の副作用があるために実用化にはほど遠い。
 だが、すべての患者が病気の進行に甘んじているわけではない。十二年間この病気を患ってきた造型美術家のニオーベ・シャンドーさん(八八)が好例だ。シャンドーさんは娘(六八)が住むマンションに家政婦とともに一人で暮らしている。多くのアルツハイマー病患者とちがって、ユーモアを失わず、クラシック音楽、タンゴ、絵画の鑑賞を続ける。しかし、人生で最も大切な部分、五十五年間にわたって創作した二千五百点の自分の作品は記憶から消え、作者が自分であることに全く気づかずに自宅の壁に飾られた自分の作品を日々賞賛する。先日、三十点の自作品とともに「華麗な花々と仮面」と題した展覧会を開いた。娘さんは話す。「十二年前、周りの人間は私の母の将来像として憂うつな絵を描いた。にもかかわらず、母はとても生き生きとしている」。