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議論されない民主主義=ノーベル賞作家ジョゼ・サラマーゴ氏に聞く=新作発表のため来伯

7月15日(火)

 九八年にノーベル文学賞を受賞したポルトガル人作家、ジョゼ・サラマーゴ氏(八〇)が、サンパウロ市で最新作『二重になった男』―自分と完全に同一の男を死にもの狂いで探す男の話―を発表するために来伯した。『修道院の思い出』の著者は今日世界の安全を大きく脅かすものについて、新たな毒舌を放つことを怠らないーそれは米国であるとー。サラマーゴ氏はグローボ紙に語った。

 グローボ紙(以下グ)「あなたはすでにメキシコのザパチスタについて書き、ラマランでイスラエルに軟禁されていたアラファト議長を訪問しました。様々な本質的問題に世界の関心を向ける必要がどこまであるとお感じになられ、それがどのようにあなたの文学に反映されるのでしょうか」。
 サラマーゴ(以下サ)「あれやこれやといった思想を表明し、広めるために私は小説を書かない。ただ例を挙げると、『盲目についてのエッセイ』の中には私が読者に言いたいことがいくつか書かれている。私たちは時折、目が見えないのではなく、善悪を判断する理性を失ったという意味で盲人のようにふるまう、などだ。干渉したり参加したりすることは、ノーベル賞を受賞する、もしくは作家になる前からずっと私の性格の一部を成していた。ノーベル賞受賞後、私の名前が知られるようになった現在、明らかなことだが、私の話すことは世界中に伝わる。チリで先祖代々伝わってきた土地の九十五%を奪われ、それを取り戻すために戦っている原住民、マプチェ族の指導者らと会った。マスコミでそれほど取り上げられていないことが戦う理由だ。キューバは取り上げられ、パレスチナもそうだ。だが、マプチェ族はそうではない。私は世界を救いたいのか?すばらしい!そうしたいものだ。救えないとはわかっているけれども」。
 グ「世界は人権と民主主義の二つの大きな議論に基づいて形作られるだろうとおっしゃられましたが」。
 サ「おそらく、米国がこれからしよう、少なくとも信じようとしていることは民主主義の名のもとにテロリズムと戦うことだろう。テロリズムは明らかに、できるだけの手段を行使してコントロールし、ほぼ壊滅にまで追い込むべき悪だ。とにかく米国はみんなが解放されるためにやりたいことをやると言っている。では、自分たちにとって良いことが他者にとっても良いと言えるかどうか。まず、私たちが民主主義の中で生きているかどうかを知る必要がある。私の考えでは生きていない。市民たちは経済力を握っておらず、経済力は非常に重要だ。経済力を持った政治代表者たちの中で政府は変質した。私にとって、議論されていない唯一つのことは民主主義のように思える。多くの場合、問題の本質に気づくことなく議論し、議論を通して市民が問題の本質を認識するために民主主義は役立つだろう。民主主義、民主主義、民主主義…といつも堂々巡りをする、一種の機械がある」。
 グ「ルーラ氏が権力の座に就いたことをどうご覧になりますか」
 サ「ルーラ氏が大統領になったと言えるだろうが、私はブラジルが政治の場で、ある程度まで自身を解放できたと言いたい。もしブラジル国民がルーラ氏を必要とするなら、ルーラ氏もブラジル国民を必要としている。大統領選挙中にルーラ氏が示した道は、広く、障害物がない道ではない。他のものと同様に、それは社会の不正義をできるだけ排除することに対して開かれた道だ。それは同盟を結ぶ必要はないが、ラテンアメリカ、とりわけ南半球の国々すべてを巻き込む計画だと言える。少し前に言ったが、ラテンアメリカは米国の奥にある中庭だ。私たちは、進む方向をしっかりコントロールしながら、どこまで独自の計画を進めることができるかを見守らなければならないだろう。何をしてもいいが、いつか誰かが自分たちを救うだろうという考えをポルトガル人の心に植え付けたドン・セバスチアン王のようなタイプの人物にルーラ氏をしてはいけない。ルーラ氏をドン・セバスチアン王、一種の救世主とみなすことは、ブラジルにとって最悪なことだ」。