7月22日(火)
現在進行中の「東部アマゾン持続的農業技術開発計画」は、JICAが実施する「プロジェクト方式技術協力」に基づく。
活動拠点を相手国に置くことを前提に、①派遣した専門家の知識や技術をカウンターパートに伝達②カウンターパートの日本での研修③相手国への機材提供――といった三つの協力からなる方式で、事前調査や事後の評価も徹底。現在行われているプロジェクトも、一九九〇年から九七年まで実施された「ブラジルアマゾン農業研究協力計画」に次ぐ第二段階となる。
アマゾンの資源を有効活用することを目的とした前プロジェクトでは、薬草の有効成分の研究や熱帯果樹、コショウの栽培方法の確立などにJICAとブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)の日伯両国の専門家が力を尽くした。
石塚幸寿さんは「大前提は、EMBRAPAの研究能力を引き上げることだった」と前プロジェクトの意義を説明。JICAの協力により、研究機材などハード面が充実したことで、より本格的な現プロジェクトを効果的に進めていけるようになった。
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EMBRAPAの所長経験を持ち、現在ブラジル側のチームリーダーを務めるジウソン博士は、研究開発のための資金確保が最大の苦労だと打ち明けた上で「JICAはこの地域の開発と発展に最も重要で、古くからのパートナー。この貢献がいつまでも続くよう願っています」とその協力関係に最大限の賛辞を送る。
実際、ジウソン博士の言葉が、社交辞令ではないことは、ベレーン周辺におけるJICAの実績からもうかがい知れる。
出発点は、移住者に対する技術支援だった。トメアスー移住地周辺の日系人を支援しようと、六一年に設立した第二トメアスー農業試験場は、七四年にはアマゾニア熱帯農業総合試験場(INATAM)に組織発展。その後、JICAの現地法人JAMICが、解散したことに伴い、INATAMは八六年に無償でブラジル側に譲渡された。
七四年からの十三年間に、コショウの病害対策などの研究に大きく寄与したINATAMでは今回、チームリーダーを務める石塚さんも三年間を過ごしている。
「ここで熱帯農業を初めて勉強させてもらった。それだけに恩返ししたい気持ちはある」と石塚さん。
日伯両国の関係者の思いは、いずれも熱い。
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ブラジル東部持続的農業技術開発計画。一見、難しげに聞こえがちなこのプロジェクトだが、目指す内容は実にシンプルなものだ。
「農民の生活がよくなれば、明日に困って焼き畑をすることはなくなる」と芳賀支所長が看破するように、アマゾン周辺での環境問題は貧困と切っても切り離せない。
日銭を稼ぐために、森林を次々に破壊せざるを得ない小農。同じ場所で採算性の高い農業を継続させることで、彼らの生活は向上し長い目で見た森林保護にもつながっていく。
石塚さんも言う。「アマゾンを守れるのは、やはりそこに住む住民。私たちはそのお手伝いをしているだけなんです」
森と共に生きる農業技術の確立――。このプロジェクトが目指す先には、かつてインジオが実践し、この地に入植した日系農家が受け継いだ「アグロフォレストリー」(森林農業)の概念があった。 (下薗昌記記者)
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