7月25日(金)
「日本の専門家が持つ研究手法と、熱帯地域の専門性を知る我々が一体となって研究することで、より大きな研究成果が出る」
EMBRAPAのアジウソン所長は、日伯両国の研究者によるプロジェクトの利点をこう語る。
実際、JICAの長期専門家とそのカウンターパート(共同研究者)の二人三脚による研究が、花を咲かせつつある。
フザリウム病――。コショウ農家にとって、悪夢に近いこの病害は、「コショウ王国」として知られるトメアスー移住地にたびたび甚大な損害を与えてきた。
一九六〇年ごろ、同移住地のコショウに根腐病が広がり始めたことから、EMBRAPAの前身となる機関が、原因究明を開始。共にコショウにとって致命的な根腐病と胴枯病ともにフザリウム菌が関係していることが判明した。
以来、国やパラー州の各研究機関は対策を求めてきたが、主立った結果は出ていないのが現状だ。
蔓一本に感染すると、畑全体が二、三年で全滅。残された大地に支柱だけがわびしく残る光景は「墓標が並ぶようだ」とさえ表現された。それだけにフザリウム病克服はコショウ農家の悲願でもあった。
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「カウンターパートが地道に研究を続けてくれたお陰」。コショウ農家の宿敵の防除法に道筋をつけた長期専門家、鬼木正臣さんは自らの手柄だけでないことを強調する。
九州大学農学部を卒業後、福岡県や国の農業試験場で植物病理のエキスパートとして活動してきた鬼木さんは九〇年から三年間、同じくJICAの長期専門家としてインドネシアのボゴール市に滞在。現地で、バニラのフザリウム病の防除法を研究してきた。インドネシアだけでなく、メキシコやベトナムでの研究経験も持つ鬼木さんは、二〇〇一年八月から二カ月間の短期専門家としてベレーンに着任。コショウの病害対策に取り組むことになった。
「インドネシア時代にブラジルのコショウを一度、見てみたいと語ったが、まさか実現するとは」と鬼木さん。
今回、フザリウム病の防除法として鬼木さんが取り組むのも、インドネシアでの知識が根底にあった。
日系農家の天敵の弱点とは――。ウスターソースにも用いられるチョウジがその鍵を握っていた。
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「チョウジでこのような実験をしてみたら」。前回、短期専門家としての任期を終えて帰国する鬼木さんは、カウンターパートにある提案を与えていた。
チョウジの落ち葉をバニラの根本にまくのがフザリウム病の対策になることを鬼木さんはインドネシアでの経験から知っていた。
実験の結果、殺菌成分オイゲノールを含むチョウジの粉末を混合した土壌と、そうでないものとではフザリウム病の発現に大きな差が現れた。
「これならいけるな」
現在、EMBRAPA内で鬼木さんは、チョウジの粉末の配合を様々に変え、
コショウに与える影響や薬害などを研究中だ。
すでにトメアスーで一月に、カスタニャールで四月に農家を対象にした講習会を実施済みで、返ってくる反応はよいという。
「現地で調達できれば安く上がる」と鬼木さん。幸いにもブラジルはインドネシアとタンザニアに次ぐ、チョウジの産地でバイーア州が栽培地となる。
「最終的には各農家でチョウジを持っているようにしたい」
他国での研究経験を生かせるのも、世界中にネットワークを持つJICAの専門家ならではの強みだ。
(下薗昌記記者)
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