8月1日(金)
【既報関連】経営するショッピングセンターの帰宅途中に誘拐されてから約二ヵ月。スザノ市有数の日系企業家、行徳マルシオさん(三五)は長期間の監禁で疲弊し、耳の一部を切られるなどしたが、三十日に解放され、待ちわびた家族らとの再会を果たした。五六日間に及んだ監禁生活や一時四百万レアルの高額の身代金が要求された誘拐事件だけにエスタード紙やジアーリオ紙を始め、地元紙も大きく注目。三十一日付の各紙は、先日逮捕された主犯格のアジナウド・ジアス容疑者(三二)や監禁の様子、マルシオさんの知人らのコメントを詳報している。
犯人
六月四日夜、経営するスザノ・ショッピングを退社したマルシオさんは高級車を運転中に、銃などで武装した六人組の男に拉致された。犯人はマルシオさんの携帯電話を奪い、行徳宅に毎週電話をかけて身代金を要求、一時は四百万レアルを求めるなど額面はたびたび変更された。七月二十四日にはマルシオさんの右耳の一部を自筆のメモ紙と共に一族経営のセラミカ行徳に送付した。
主犯格とされるアジナウド・ジアス容疑者は二十九日、ポアー市で偽書類をもとに運転免許証を取得しようとしたところで逮捕された。同容疑者はミナス・ジェライス州で二〇〇二年初め、企業家の息子(一五)を誘拐した罪で刑に処されていた。また、昨年六月、カンピーナス市であった誘拐事件にも加担していたと見られる。この被害者はマルシオさんのように耳を切られていた。そのほか、銀行強盗の罪で州警に逮捕されていた。
サンパウロ州市警誘拐対策課(DAS)はジアス容疑者を厳しく尋問、その結果、仲間五人の呼名を特定した。行徳宅への身代金要求の電話は、同容疑者が主にかけていたらしい。DASによると、〇一年から被害者が耳を切られ、その後解放される誘拐事件が六件発生しているとし、同容疑者の余罪を追求している。
監禁生活
マルシオさんの監禁は五十六日に及んだ。現場はいまだ捜査中だが、窓のない地下室に閉じ込められ、少なくとも五人の覆面男たちが不眠で見張っていたらしい。マルシオさんは犯行グループの顔を見ていない。「絶えず虐待を受け、脅されていたようだ」とDAS。右耳は約四センチ切断されていた。食事はまずかったという。
マルシオさんはジアス逮捕から十四時間経過した三十日、サンパウロ市から百四十キロ、サンパウロとクリチーバを結ぶ幹線道路上(BRー116)のマラカトゥ地域で解放された。ヒッチハイクを試みたが成功せず、連邦道路警察に発見された。シャワーを浴びず、不精髭をはやし、耳を切られ、痩せ細ったマルシオさんは市警ヘリコプターでクリニカス病院へ搬送された。
心の傷
マルシオさんの解放を受けDASは、行徳一家は身代金交渉をすべて警察に一任し、警察側もスザノ市内の行徳一家のアパートから離れることはなかった、と認めた。専門家によると、警察が犯人の呼名を特定した時、マルシオさんの両親はスザノ市内に所有しているシャッカラに滞在していただろうとしている。
行徳一家の友人で医師、テツヒロ・モリモトさん(三七)はマルシオさん解放を知り、スザノ市内の行徳宅に駆け付けた。テツヒロさんはマルシオさんの両親と時々連絡をとっていたが、「家族はサンパウロ市内で、警察の捜査などに全面協力することを選択した。ただ、両親、特に母親のレーラさんはとても衰弱している様子だ」といった。また、「兄弟のマウロさんも、マルシオさんの誘拐後、学校から息子たちを避難させるなど神経を尖らせた。みんな、不安で怯えていた」とも語った。
行徳一家と同じアパートに住むスザノ市長夫人、ヴィヴィアーネ・ドムシュケさんは〇一年、犯人が市長令嬢と勘違いして、娘の共同経営者を誘拐、二十日間監禁したことを思い出し、「解放で家族だけでなく、私たち近隣の住人もほっとした。家族が事件の心理的後遺症からいち早く抜け出せるよう心からお祈りします」と語った。