8月1日(金)
『ガイジン』といえば、ブラジルでは山崎千津薫監督の映画を思い浮かべるが、アルゼンチン日系社会にも新しい『ガイジン』が生まれた。若干二十四歳のマキシミリアーノ・マタヨシ(二世)さんは、沖縄出身の父の歴史を描いた同名の著作を今年出版し、メキシコや同国で大きな反響を呼んでいる。次回作ではブラジルの日本移民史を扱う予定で、取材のために数日間、サンパウロ市に滞在した。亜国文学を担う新旗手の登場に、各方面から大きな期待が集まっている。
昨年十一月六日、メキシコ自治大学と大手出版社アルファガーラが共催する、中南米スペイン語圏諸国の新人作家の登竜門ともいわれるプレミオ・プリメーラ・ノヴェーラ(処女作賞)に、マタヨシさんの『ガイジン―アルゼンチン移住の冒険』が選ばれた。
同作品は、亜国生化学の草分けの一人として有名な父・テツジの移住史を描きながらも、二世である自分自身のアイデンティティに焦点を当てた、史実に忠実なフィクション。
中南米文化事情に詳しいアルゼンチン大使館文化センターの石川輝行書記官も「移住者自身が書いた従来の著作は過去に焦点が向きがちだったが、この作品は自分の内面を掘り下げることにより、現在を描いている点で画期的であり、アルゼンチンでも高い評価を得ています」と太鼓判を押す。
マタヨシさんは「いつか父の話を書きたいと思っていました。父は無口であまり自分のことは語らないのですが、小さい時からポツリ、ポツリと語ってくれたことを書き留めていたので、それを少し自分なりに解釈し、まとめてみました」という。特に第一章、第二章の沖縄から移住するくだりは、史実に基づきながらも、印象的な寓話となっている。
メキシコで二月に、アルゼンチンでは四月に、出版されて話題を呼んでおり、初版から七千部発行された。
また、八月十八月には首都ブエノスアイレスのホテル・エンペラドールで、ガリシア地方出身の母の移住史を描いた処女作『ママ』(母)で話題になっている、亜国主要紙ナシオンのホルヘ・フェルナンデス・ジアス編集次長(スペイン系二世)と共にシンポジウムを開催する予定。
日本大使館、スペイン大使館が共催し、沖縄連合会とガリシア協会が後援するという、興味深い多文化交錯シンポジウムだ。
次回作ではブラジルの日本移民史を扱う予定で、取材のために二十九日から三十一日までサンパウロ市に滞在し、日本移民史料館や国際交流基金で文献を集めた。「アルゼンチンにはなかった勝ち負け紛争、そして現在のデカセギの状況など、ブラジルには面白いテーマがいろいろあり、大変興味深いです」と語る。
亜国日系といえば「洗濯屋」「花屋」というイメージが強かっただけに、文化・芸術方面への進出が長らく期待されていた。アルゼンチン文学を担う新旗手が誕生したことで、日系社会ばかりでなく各方面から大きな期待が集まっている。
※『Gaijin-La aventura de emigrar a la Argentina』Maximiliano Matayoshi, ALFAGUARA刊 2003スペイン語