陸奥や出羽の国にも夏祭りがやってきた。津軽の弘前では「ねぷた」が始まり羽後の国は伝統の「竿灯」が夜空を勇壮に彩る。これらを引き継ぎ伊達藩は杜の都・仙台の街々を飾る「七夕」が続く。これを東北の三大祭りと呼ぶ。いずれも「眠流し」という七夕の灯籠流しだが、東北では昔ながらの祭りを今に受け継いで賑やかに酔い騒ぐのが仕来りらしい▼「ねぷた」は、七ー八メートル四方もある豪快な武者絵や美人絵を山車に乗せ笛や太鼓で囃し立て豪壮に街を練り進む。見事なばかりの髭を描き大きな目玉を剥き出し鎌倉武士をも想わせる色彩豊かな顔は、絵師の渾身の筆捌きから生まれる。秋田の竿灯は、太い竹一本に蝋燭を灯した提灯を四十八個も九段に分けて吊るし肩に乗せ舞うが如く横に前にと歩む。興が乗れば額の上にあの重い竹を立てるのは歴史を誇る伝承芸か▼津軽と羽後の「ねぷた」と「竿灯」は「動の世界」と見たい。これに比べると陸前の国・仙台の「七夕」は、どちらかと言えば「静の祭り」に近い。竹竿に飾られた吹き流しは華麗で艶やかだし見物人の目と心を堪能させても呉れる。それとー。東北の三大祭りは揃いも揃って旧暦に従っているのが嬉しい。近ごろは「七夕」も、神奈川県の平塚のように新暦派が多くなってはいるけれども、これらは旧暦が正しく風情もある▼ここで思い出したのだが、この三つのお祭りはサンパウロにも来ているし多くの人々の胸に日本の祭りを植え込んだ。侫武多(ねぶた)の雄偉。竿灯の芸。七夕の優雅ー。 (遯)
03/08/05