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日本文化を踊ろう!=―ブラジルに生きる郷土芸能―=第3回=アルモニア学園=川筋太鼓の魅力=人種、世代を問わず

8月16日(土)

練習では、10代の若者パワーが炸裂

 サンベルナルド・ド・カンポ市ルージ・ラモス区カミーニョ・ド・マール通り二七〇九、コレージオ・アルモニアでは昨冬、JICAシニアボランティアの小田幸久さん(五三)のもと、福岡の芸能「川筋太鼓」を始めた。メンバーは五歳の子どもから、三〇、四〇代の親たちまで約八十人。子どもたちはクラス別に毎日、日替わりで昼休みに学校の講堂で練習をしている。

 鎮魂の響き

 一九六二年、筑豊炭鉱犠牲者のために慰霊碑を建てたい、炭鉱閉山で衰退する街を元気づけたい、との思いから、同県穂波町で始まった川筋太鼓。全身を使ってバチを打ち込む勇壮な姿に、勇ましい筑豊の鉱夫を思わずにいられない。九一年、同太鼓保存会として再結成、約五百人の団員を従え、日本全国、海外はアメリカなどでも演奏活動を繰り広げている。
 ブラジルには昨年三月、福岡県人会の要請をもとに「ブラジルに太鼓を贈る福岡県有志の会」が太鼓六張を寄贈、同年七月、川筋太鼓指導者、小田さんが二年の任期で来伯した。小田さんは同コレージオやグアルーリョス文協などを皮切りに各地で指導している。

 躍動する青春

 コレージオ・アルモニアでは現在、メトジスタ大学に留学している梅本善忠さん(二三、奈良県出身)、日系三世のスエミ・コエーリョさん(一八)が熱心に教えている。梅本さんは、昨年、同校の渡辺次男理事長に誘われて参加。最初は小田さんから叩き方を覚え、それを生徒たちに教えるようになった。
 「子どもに太鼓を教えるのは大変。小さい子は言うことを聞かないから」と苦笑する。しかし、若いからこそ、飲み込みも早い。子どもたちは、太鼓を触ってからわずか一年とは思えないバチさばきを見せる。
 もう一人の指導者、スエミさんは、「(太鼓を叩くと)エネルギーやスピリットを感じる」。日本文化に興味を持つスエミさんは、「いつか、日本に行ってみたい」と語る。

 胎内の記憶

 ブラジルでの川筋太鼓普及を目指す小田さんが着任当時、当社に語った話によると、「将来はサンバと太鼓の融合を夢見ている」とのこと。太鼓の魅力は、「欲や得と無縁なところ。太鼓は一人だけうまくてもダメ」と語っている。お互い認め合い、尊重することが太鼓の原点だとしている。
 また、外国人が太鼓を聴いて涙を流す理由に、「医学的にみて、人間は母親の胎内の心臓音を聞いた経験がある。その記憶があるから、太鼓は、人種を問わず、人々に感動を与えるのでしょう」と語っている。
 太鼓に国境はないと断言する小田さんの任期は、あと一年足らず。「任期には期限があっても心は無期限。和太鼓がブラジルに根付くよう、レールを敷くだけ」。そして、小田さんから教えを受けた梅本さんは、「今は学生という身分だけど、この先も、ずっとブラジルにいたい。川筋太鼓にも携わっていきたい」と意欲を燃やす。
 ブラジルで少しずつ、認められ始めた福岡の川筋太鼓。和太鼓とサンバが完璧に融合したリズムが、南米の大地を駆け巡る日がやって来る。
(門脇さおり記者)

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