8月23日(土)
戦後日本で始まったダンス、「舞踏」。その身体芸術としての可能性を発展的にブラジルへと伝えた楠野隆夫さんが亡くなってはや二年が経つ。九月二日から十二日までサンパウロ州内各地の劇場で開かれる日本ブラジル舞踏フェスティバル「舞踏の軌跡」公演(SESCサンパウロ、国際交流基金の共催)は日伯両国およびドイツを代表する舞踊家・グループが一堂に会し楠野さんにオマージュを捧げるイベントとなる。戦後移住五十周年記念事業、ジャパン・ウイークス(サンパウロ総領事館企画)の一環でもある。
楠野さんは北海道・夕張の生まれ。七六年に移住してまもなく『コルポ1』を演出し、ダンス界に衝撃を与えた。以後、その独特の身体観はブラジル文化芸術の形成に広く影響を与えてきたとされる。
「隆夫が来る前、ブラジルでダンスといえば体操的な要素が強かった。彼はそこに身体を深く見詰めるという概念を持ち込んだ。そんな風に評されることが多い」。楠野さんの兄裕司さんと一緒に夫婦でイベントの企画・制作に当たる秋葉なつみさんは説明する。
舞踏は五九年、故・土方巽さんが創始した。その後、海外にも普及し多様な発展を遂げるが「舞踏とはいったい何だろう」という疑問がいつも残る。楠野さんにしてみても自分の舞台を「舞踏」とは正面きって呼ぶことを避けていた節が強い。
「文化や言語など環境のなかで『舞踏』は移り変わるもの。日本、ドイツからの舞踊家を招聘したのは、『舞踏』の流れを浮かび上がらせたかったから。『軌跡』という言葉にその意味を込めたつもり」
去年の八月から準備に入り、イベントの実現に向けて奔走してきた。来伯が決まった出演者の顔触れは実に豪華。故土方さんや現役最高齢の舞踊家大野一雄さんの流れを汲み第一線で活躍するダンサーたちだ。ブラジルでこれだけの陣容が揃うのはもちろん初めて。
大野慶人さん、笠井叡さん、和栗由紀夫さん、舞踏舎・天鶏(鳥居えびすさんと田中陸奥子さん)が日本から。ドイツからは佐々木満さんとジェニファー・ブロスさん、また楠野さんのかつて弟子でいまは欧州を代表するダンサー、イズマエル・イヴォも帰国公演。ブラジル側は大野一雄さんのもとで学んだマルタ・ソアレスさん、楠野さんが率いた劇団タマンドゥアも遺作を発表する。
劇団タマンドゥアは今秋の京都ビエンナーレへの出演を決まっているそうで、裕司さんは「今年は隆夫の三周忌であるとともに彼の妻フェリーシアの七回忌でもある。東京そして隆夫の故郷である北海道でも公演できるようにしたい」と話している。
この『舞踏の軌跡』公演は日本の文化庁、ドイツのゲーテ・インスティトゥートが助成、戦後移住五十周年祭実行委員会、ニッケイ新聞社、サンパウロ新聞社が後援、ニッケイ・パレス・ホテル、ブラジル富士フィルム、日本航空、ジェイ、インテル、インサインが協賛している。
サンパウロ市のSESCコンソラソンを中心にサント・アンドレ市、サン・カルロス市、アララクア市の各SESC、リベイロン・プレット市立劇場が舞台となる。計十四公演。あわせて行われるワークショップ、セミナーなどを含めて詳細日程、内容は後日詳報する。