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ベストセラー作家=デカセギ問題に一肌脱ぐ=イサミ・チバ氏が本執筆=利益は支援団体へ寄付=来年4月に日本で講演も

9月3日(水)

 グローボTV局ニュース番組等で家族関係の問題や尊属殺人のコメンテーターとして頻繁に登場するベストセラー作家、精神科医イサミ・チバさん(六二、二世)が、今年暮れまでにデカセギ家族と日本人に向けて教育の重要性を説いた新作を執筆する。この本はボランティアとして出版するもので、収益はデカセギ支援プロジェクトに寄付されるという。来年四月には日本の大学で特別講義も予定もしており、デカセギ問題解決へ超大物日系人が担ぎ出された。

 「デカセギする父親の多くは、ただの生活資金提供者になり下がっており、家族の中で本来の役割を果たせないでいる。ただ一生懸命に残業し、稼ぐという意味では成功した反面、家族の絆を失いつつある。いくらお金を手にしても、息子が刑務所に入っているのではよい人生とは言えない。そのためにはビジョンを変えなくては」。サンパウロ市ピニェイロス区にある診療所で八月二十九日、本紙の取材に答えた。
 チバさんの最新著作『Quem ama, Educa』(愛する人は教育する)は、現在三十六週(九カ月間)連続してノン・フィクション分野の国内販売ベスト10に入っており、先々週は一位、先週も三位だった。まさに今が旬の超売れっ子作家だ。
 すでに十三冊の一般向け心理学書を発表して計六十万冊以上を売上げ、国内外で二千五百回もの講演会をしてきた。グローボTV局ニュース番組に頻繁に出演するなど、常にブラジル社会に向けた活動を行ってきたので、日系人向けの本は今回が初めて。
 これから執筆する新作は「実質的にほぼ書き下ろしになる。デカセギだけでなく、日本人にも読んでもらえる本にしたい。今までの著作とはまったく違った特殊な本になる」と考えており、日ポ両語表記になる。「デカセギ問題は、彼らだけで解決できるものではない。日本社会との関係で生じるものもあり、日本人の理解も重要だと思う」と考えるからだ。
 現在は協力者が必要な資料を探しに飛び回っており、集まり次第執筆をはじめ、十二月までには書き終えるという過密スケジュール。
 来年四月には日本で「日本ブラジル週間」というブラジルおよび日系社会を紹介する文化経済交流イベントが催される予定で、そこで出版と同時に記念講演などを行う。大学でデカセギ問題に関する特別講義するなど、今件への理解を広く訴えたいと考えている。
 これら一連の動きは、二週間ほど前に日本の主催団体などから要請をうけたばかり。詳細を詰めるための調整が、まだ水面下で進められている。
 デカセギ子弟の犯罪増加についても「家族の問題だけでなく、日本社会の問題も含まれる。デカセギ子弟が日本の学校に入っても定着しない原因には、外国人へのイジメもあるだろう。ならば日本社会も文化的規範を考え直さなければならないのでは」と問いかける。
 日系社会の問題に限定した本をブラジル社会の著名人が手がけるとは、従来考えられなかった。デカセギ問題対策が、新しい時代を迎えようとしている。