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国境を越える経営哲学=盛和塾ブラジル10周年(7・終)=取引き環境が好転=経営姿勢、顧客への配慮

9月4日(木)

 中小企業経営者には〃一匹狼〃が多い。まして日本を離れて会社を起し、自分の力を試そうと考えていた移民には、その傾向が強いようだ。そんな〃狼〃たちが、どうして稲盛哲学を有難がるのか。
 今年一月から代表世話役を務める板垣勝秀さん(五五、北海道出身)は「経営者って孤独なんですよ」としみじみと語る。時には、誰にも相談できないこともある。会社の大小に関係なく、毎日のように会社の浮沈に関わる重要な判断が求められる。「そんな時、塾長だったらどうするか?と考えるんです」。
 置かれた状況は何も変わらないが、そう考えるだけで、なぜか元気がでる。
 マット・グロッソ・ド・スル州で牧草種子生産をする久枝俊夫さん(五三、愛媛県出身)は入塾した頃、「税金を払えと言われても何のことか分からず、こんないい加減な政治家や政府に税金なぞ払えるものか」と思っていた。労働者を正規登録すれば、社会保険や福利厚生費などで経費は倍になるからだ。
 入塾一年後の九五年、収穫の真っ最中、政府の労働基準監督所から、種子採取労働者六百人以上の未登録などの件で、当時の売上一年分と同額の罰金を科せられた上、種子の採取場を強制閉鎖させられた。「何で自分だけが…」という思いで一杯だった。
 以来五年間、税金や罰金、借金の返済に明け暮れた。同時にサンパウロの例会にも欠かさず参加し、塾長テープ、著作、塾報を頭に叩きこんだ。「それでも良く理解できませんでしたが、他に方法なく、ただ言われるように税金を全部払っていこう、社員の幸福も考えてみよう、判断基準は公明正大に、ごまかしや卑怯なことを改め、自分にもできることを一つずつ実行してきました」。
 次第に会社の中が見えるようになった。「この社員はこんなにいい人だったのか」と見る目が変わってきた。
 〇二年、種子採取地を大きく増やしたが、収穫に必要な機材、労賃等の資金五千万円の目途が立たず、困り果てていた。一般銀行の金利は高く、借り入れは不可能。資金がなければ、収穫時期にタネを競争相手に叩き売るしかなかった。
 ところが思いがけず、ある政府系銀行が低利で全額融資してくれることに決まった。その理由は久枝さんの経営姿勢にあった。「税金その他、支払うべきものを遅滞なくきちんと納める真面目な経営姿勢を評価してくれた。必要な書類が全て何の問題もなく揃ったんです」という。
 仕入れ先や得意先との取引きで、これまでいろいろストレスが溜まる場面が多々あった。だが最近は、資金に余裕がある時は期限前に払うようにしたりすることで、取引先から喜んでもらったり、顧客へのちょっとした配慮や気づかいで、取引き環境がみるみる改善されてきた。
 これが、塾長の言っていた事だったのか――。稲盛哲学を信じて、五年間の辛い借金返済生活に耐えた末の〃目覚め〃だった。
 「ぎくしゃくしていた事がなくなり、全てが円滑に運び、将来への不安が減りました。塾長がおっしゃる、つまらない感情的な心配をしないで、前を向いて歩き、相手の心を思いやる気持ちと正義を持つ事で、私自身が毎日本当に気持ち良く過ごさせていただいています。以前には考えられないことでした」
 日本移民の農業分野への多大な貢献は、ブラジル人の誰もが認める評価だ。そんな移住者ならではの〃目覚め〃が、次の世代に受け継がれるのか。創立十年を経た盛和塾ブラジル――。絶え間ない試行錯誤は、これからも繰り返される。
   *    *
 盛和塾ブラジル(電話=011・3253・5167)十周年を記念した、稲盛和夫塾長の市民フォーラム「人は何のために生きるのか」が六日午後五時から文協大講堂で一般聴衆向けに開催される。企業の話でなく、一般向けの人生論だが、聞く側の姿勢いかんによっては「何かが変わる」、そんな講演会になりそうだ。(深沢正雪記者)
      =おわり=

■国境を越える経営哲学=盛和塾ブラジル10周年(1)=最悪の経済状態に始動=迷いながら50人で開塾

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■国境を越える経営哲学=盛和塾ブラジル10周年(7)=終=取引き環境が好転=経営姿勢、顧客への配慮