9月10日(水)
黒い羽毛をまとったその姿からは、悠然とした気品を感じさせ、時速六十キロで走るという伸びた足は、その堂々たる体駆を支える。二本の指を大地に食い込ませ、毅然と長い首を佇立させた姿が、サバンナの貴族を思わせるダチョウ。この飛べない鳥が近年、注目を浴びている。『低カロリー、低コレステロール』が売り文句の肉、カルナバルのファンタジアには欠かせない羽。卵の殻は民芸品に、生体は高価格で取引される。ブラジル唯一の日系ダチョウ飼育組合(COONTRUZ=佐久間ネルソン会長)と第二アリアンサで飼育に取り組む前田リカルドさんを訪れ、ダチョウ飼育の現場とこれからの展望を聞いた。
◇本文
「ダチョウはこれから、面白くなりますよ」。佐久間会長は、柵越しにダチョウの頭をいとおしげになでながら、笑顔をみせた。
パラナ第二の都市、ロンドリーナ郊外。〇二年二月に組合を立ちあげたCOONTRUZの会員数は現在、三十五人を数え、三人の従業員が、六アルケールの土地で飼育する約百八十五羽のダチョウの世話を行っている。
「ダチョウ飼育には多くの利点がある」と話す佐久間会長は飼育土地面積とその生産性を挙げる。
一アルケールに一頭しか放牧できない牛に比べ、ダチョウは三十から四十羽の飼育が可能なうえ、年間三十前後の卵を生む。(牛は一年に一頭しか生まない)
百キロのダチョウからは、三十五キロの肉が取れる。食肉として利用できるのは、生後一年からというから、肉の年間生産量は桁違いだ。
さらに驚くのは、ダチョウの雌は約四十年間も卵を生み続けるということであろう(ダチョウの寿命は七十歳を超える)。
Acab(ブラジルダチョウ飼育協会)の報告によると、「生産者の七〇パーセントは親鳥としての生産販売、二五パーセントが国内における皮革販売、わずか五パーセントが食肉の販売」だという。それに加え、ダチョウ肉はまだまだ食肉として認知度が低く、一キロ約六十レアルという値段はまだまだ市民には高値の花だ。
実際、COONTRUZにおける肉の販売は、ロンドリーナ市内のレストランや一部のスーパーマーケットに週五~六キロを卸すほどに留まっている。
しかし、佐久間会長が「現在、ブラジルでも健康志向が高くなっており、ダチョウ肉を商業ベースに乗せ得る可能性は十分にある」と力説するには理由がある。
実際、他の肉と比較しても、コレステロール値はかなり低い。キロ当たりのカロリー値を比較すると、二百四十(牛)、二百七十五(豚)、百四十(鶏)に対し、ダチョウは九十七。
コレステロール値も二、三割は低く、低カロリー、低コレステロール肉代表の七面鳥をも下回る。
肉はきれいな赤身で鉄分を多く含み、やわらかい。「すきやきなどでもいいし、ミラネッサにしても美味」とか(佐久間会長)。
値段に関しては「これから広報活動などで、需要を伸ばせれば、価格も低減できる」とも。近々、肉をサラミやソーセージ、パテなどの加工品にする考えもあるという。
革はカバンや靴などの皮革製品の需要も高く、ヨーロッパなどに高値で輸出され、一羽分の革は傷がなければ、約五百ドルで取引される。
COONTRUZは四月三日にロンドリーナ市内で開かれた「第四十三回農業畜産工業博覧会」に二羽を出品、好評を博した。
パラナ州では、約三十家族がダチョウ飼育に取り組んでいるというが「中小規模の同業者と合同で、州政府に資金融資を申請する動きもあり、来年には大幅に飼育数を拡大していく」と佐久間会長の鼻息は荒い。
(堀江剛史記者)