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はばたけ!ダチョウ飼育(下)=夢追う日系飼育者==高まるブラジルでの需要

9月12日(金)

 ダチョウ飼育の大きな問題は、長期的な投資とインフラ整備が必要なことが挙げられるが、COONTRUZは滅菌した卵を、土曜日にまとめてアラサトゥーバ(USP)の共同試験場へ運び、孵化させている。来年からは共同で孵化場を研究しているロンドリーナ州立総合大学で孵化させる予定だ。
 前田さんは、全ての作業を第二アリアンサの自営飼育場で行うため、様々な設備を揃えた。
 五十万レアルする高額の孵卵機や孵化施設、湿気に弱い雛のための除湿機、停電に対応するため、発電機も不可欠だ。成育段階で区分して収容する雛の飼育棟も建設した。
「だから、まだまだ儲けるところまではいかないね」と笑う前田さんだが、昨年は(一羽七百五十レアルで売買される雛)三百羽を売ったという。
 細心の注意を払っても、やはり二割が孵らない。表面に荒い気泡のある直径二十センチほどの卵の殻は、中身を洗浄した後、装飾を施し、民芸品としても販売される。COONTRUZでは「現在、組合員の奥さんが絵の練習中」だという。
 「卵は鶏卵二十四コ分あるし、オムレツにしたら美味しいけど、卵を食べるのは損だよね」とは前田さんの弁。卵は六十レアルで売られるが、育てた後に売買することを前提に考えれば、まさに〝金の卵〟だからだ。
 孵化するまでには、約四十日を要する。孵化場に入る際には、細菌が入らないよう、風呂に入り、服も変えるという徹底さで滅菌対策をしている。産卵期には、常時百個以上の卵を孵化させるが、この施設には月額五百レアルほどの電気代がかかっている。
 孵化三日後には飼育場へ、また二週間後には別の場所へ移動させるというから大変だ。
 飼料は合成飼料や牧草などを与えるが、一羽平均二キロを消費する。なお、羽毛を販売する予定のダチョウには特別なえさを与えるなどの使い分けが必要となる。
 ダチョウの羽はカルナヴァル時期には二十トンが消費されるが、そのほとんどが現在、輸入品であるため高価だ。ダチョウの羽は静電気を起こさない性質を持っているため、電子部品などの製造工場にも大きなニーズがあるという。
 現在、南アフリカ、アメリカ、スペイン、イスラエルが世界の主なダチョウ生産国だが、「牧草なども豊富で土地環境の面でも最適といえるブラジルでダチョウ飼育の将来は明るい」と話す佐久間会長。
 「ゆくゆくは組合員が技術指導などを行い、ブラジルに広げていきたい」とその思いを語る。
 前田さんは「今年からは食肉用のダチョウに力を入れていきたい。ゆくゆくは敷地内に屠殺場を建設したい」と新たな夢も。
 「来年からは商業ベースに乗せたい」と張り切る佐久間会長だが、ダチョウ飼育に取り組んでいるのには、別の理由もある。それはデカセギ帰国者対策だという。
 現在、COONTRUZでは、日本でデカセギ中の組合員に代わってダチョウの飼育を行っており、「事業が軌道に乗れば、(帰国後の)彼らの仕事につながる」と話し、「日本にいる組合員にとっては、ひとつの投資」とも。
 自身も長野で十年間デカセギ経験があるだけに、「日本との往復を繰り返すだけでは、何の希望も夢もない」。
 前田さんは「不安はある。病気などの問題はいまだ分からない部分が多いし、知っている人は他の生産者に教えない」と個人で行う事業の辛さを語る。「でも、楽しいよね。名前をつけるまではいかないけど、ダチョウもかわいいしね」と日焼けした顔をゆるませた。
 Acab(ブラジルダチョウ飼育協会)は今後二年でブラジル国内の飼育数(約十万羽)が二倍になると分析している。ダチョウ業界は年間五千万ドル市場といわれており、その将来性が高く評価され始めている。  (堀江剛史記者)