10月14日(火)
十七日に開幕するサンパウロ国際映画祭の回顧部門で、〃松竹ヌーベルバーク〃の旗手・吉田喜重監督の作品七本が特集上映されることが決まり話題を呼んでいる。映画祭の国際審査員にも選ばれた監督は、夫人で女優の岡田茉莉子と同日、着聖。映画祭が終わる三十一日まで滞在するという。
広島の原爆を描いた新作「鏡の中の女たち」(二〇〇三年)を含む上映作品のなかには、「エロス+虐殺」(七〇年)、「戒厳令」(七三年)といった当時の日本社会の暗部をとらえた数々の問題作もみられる。
日本人監督の特集上映は四年前の鈴木清順監督以来。だが丸々二週間の滞在、審査員を兼ねるとなれば異例。自作の評論本の出版会まで予定されている。
映画祭主催団体がその著『小津安二郎の反映画』の英訳版を刊行、監督の滞在中に国際市場を視野に入れた出版記念会をサンパウロ市で開くという。小津監督の生誕百周年になる今年、吉田監督を招待し照準を合わせた格好だ。
福井市生まれの六十九歳。東大仏文科卒業後、松竹入り。木下恵介監督のもとで助監を務め、六〇年に「ろくでなし」でデビュー。大島渚監督、篠田正浩監督とともに六〇年代日本の映画界に新しい波を興し、〃松竹ヌーベル・バーグ〃の旗手と呼ばれた。
三監督とも夫人が女優。吉田監督は「秋津温泉」(六二年)に主演した女優の岡田茉莉子と結婚。夫婦〃共演〃は「水の中の女たち」が実に三十一年ぶりになる。監督自身も同作が「嵐が丘」(八八年)以来の現場復帰。十二歳のときに福井で大空襲にあった経験から、「いつかは原爆を扱かった映画を」と温めてきた企画だという。