あの感動の日から長いようでもあり短くもある一年―。北朝鮮によって拉致された生存者たち五人が日本に帰ってから十五日で一年を迎えた。地村さんと蓮池さんのご夫妻。夫のチャールズさんを北朝鮮に残した曽我ひとみさんたちはみんなが元気で新しい暮らしに慣れようと頑張っている。だが、こうした拉致被害者らは北朝鮮に残してきた息子や娘・ご主人と別れ別れになっている非運に泣く人なのである▼帰国をし一年の会見に臨んだ拉致被害者たちが揃って訴えたのは「なぜ家族を帰さない」の血の叫びであった。地村保志さんと富貴恵さんは二人の息子と一人の娘。蓮池薫さんと祐木子さんは大学生の長女と長男。曽我さんは夫と学生の二人の娘―と八人の家族が離れ離れになって北朝鮮に取り残されている▼金正日総書記は小泉首相との会談で「拉致を認め謝罪」もしたが「家族の情愛」という人間の根底にあるものには弱いらしい。韓国には離散家族という社会的な問題がある。あの朝鮮戦争のときに北朝鮮から逃れ韓国に移り住んだ人々七百五十万人が今もなお家族や親族が南北に別れ住む悲劇である。これも再会が難しい。韓国の希望に反して金政権が人情や家族愛に冷たいからにほかならない▼拉致家族への不埒な態度も離散家族への応対と全く根は同じと見ていい。帰国した五人とは別に北朝鮮が「死亡」とする八人についても松本薫さんのように遺骨が別人のものと情報は真に怪しい。それでも北の氷壁を打ち破るまで強く臨み拉致家族が共に暮らせるように国を挙げて頑張りたい。(遯)
03/10/16