10月30日(木)
子や孫の未来を担う選挙戦――。今回の衆院選は、海外在住有権者にとって三度目の在外選挙権行使の場となる。各党が政策実現の具体策を提示した「マニフェスト(政権公約)」を掲げて争う今回の選挙戦。ブラジル在住の有権者にとっては、現在約三十万人のデカセギが生活基盤を置く日本の将来を考える絶好の機会でもある。数多くの社会問題は、日本在住の日系人に直結するだけに、舵取りを担う政党・政治家の役割は大きい。選挙権のない子や孫に代わって、日本の未来を考える機会が国政選挙だ。しかしながら、主張や政策についての情報量が不足するため、選挙への関心が盛り上がらないのも事実。選挙戦に向けたコロニアの実情や各党首や政党の主張・政策を三回にわたって紹介する。
どこへ入れたらいいのか
「政党や候補者の主張が分かる資料はありませんか」――。二十八日、ニッケイ新聞社に七十歳代の男性が訪れた。在外選挙人登録をしているこの男性は、投票をするにも「誰に入れればいいのか分からない」と頭を悩ませる。
昨年、ニッケイ新聞が実施した在外選挙についてのアンケートでも「各党の政策が分かりにくい」「どんな候補者がいるのか」などと情報量の少なさに悩みを見せる回答が寄せられた。
今回の選挙からは公職選挙法の改正により、マニフェストを記載した冊子を選挙事務所や演説会場で配布できるが、新聞社はもちろんのこと、コロニアで唯一、在外選挙を手伝うブラジル日本都道府県人会連合会にも各政党の資料やマニフェストは届いていない。
県連の窓口で投票用紙の記入法などを手伝う中山事務局長も「政策が分からないから、どこに票を入れていいのか分からない人も多い」と困惑気味だ。中には「誰に投票するか、あんたが決めて」と中山事務局長に筋違いの依頼をする有権者もいるというが、その根っこに情報不足があるのは間違いない。
二十七日付けの邦字紙には民主、共産、公明各党の選挙広告が掲載されたが、「政策の全容を知るには程遠く、海外在住者にはピンとこない内容。有権者の判断材料には程遠い」との声も寄せられた。
過去二回の在外選挙では、県連宛に政党からパンフレットなど資料が送付されていたが、それも今回はなし。投票率の低さから在外有権者は票田として期待されていない現実が、各政党の姿勢に現れている。
公選法の壁に阻まれ
「領事館辺りが、党や候補者の資料を発表してくれれば」という声も聞かれるが、管轄するサンパウロ総領事館も頭を悩ませる。
現在、約一万三千人の在外選挙人登録者を抱える同総領事館。有権者の便宜を図ろうと、県連などに比例区のブロック別立候補状況に関する情報を提供することを検討したが、総務省から公選法に抵触する、とストップがかかった。
同総領事館では、全国を九ブロックに分割した比例区について、有権者から問い合わせがあった場合に限り、各ブロックにどの党が立候補しているかを回答しているという。担当者は「これまでに十人近い問い合わせがあった。本当はもう少し、便宜を図れれば有権者も選択しやすいのだが」と公選法の壁に頭を悩ませる。
遅くとも3日までに投函
来年六月の参院選からは管内で初めて、公館投票が実施される同総領事館。「スムーズに投票してもらえるように、会場にブロック別の政党一覧を張り出す予定」と担当者は語るが、会場で有権者が政党名や立候補者について迷う場面も予想される。
同総領事館では、邦字紙などを通じて投票を呼び掛けているが、郵便投票では日本時間で十一月九日午後八時に、登録した市区町村の選挙管理委員会に到着する必要がある。「遅くても三日には投函する必要がある。政策については答えられないが、ブロック別の政党名が知りたい人は電話で問い合わせて下さい」と担当者。サンパウロ総領事館は11・287・0100。
ニワトリが先か卵が先か――の議論ではないが、まずコロニアが在外選挙権を十分に行使すれば、政党もその存在を注目せざるを得ないはず。有権者に残された時間はあとわずかだ。