11月6日(木)
【スセッソ誌】クラウジオ・レアルさんは州立リオデジャネイロ銀行バソーラ支店に勤務していた。同銀民営化のうわさは、早くからあった。民営化されれば行員のほとんどがリストラされ、古参で給料の多い方から解雇される。
レアルさんは四十四歳、再就職の難しい年齢だった。毎日リストラされたら、何をしようかと考えた。親からもらった遺産は、満足な五体だけ学歴もなし特殊技能もなし、迷いに迷った。昼間は銀行で働き、夜間はビジネス・スクールとピッツアの講習に通い会社経営のABCとプロのピッツア作りを学んだ。
レアルさんのおいしいピッツアの研究が始まった。銀行の民営化は、思ったより遅かった。レアルさんは銀行勤務の傍ら、夜は自宅でピッツア作りに励み余暇は行商を始めた。
創業時代は、銀行の給料で生活したので親戚や友人に借金をしなくても済んだ。お隣さんに試食してもらうなど、おいしいピッツアの研究は怠らなかった。やがてレアルさんのピッツアは、おいしいとの評判が立ち始めた。
銀行の民営化が決定、行内はリストラの話で持ち切りとなり誰も仕事が手に付かなかった。レアルさんはピッツアの品質に自信を得ていたので、希望退職した。退職金やたまっていた有給休暇など五千レアルもらい、ピッツア機器一式を購入した。
ピッツアの行商で家族の生活が賄えるかは、多少の不安があった。両親の家に物置を借り、小さなピッツア工場「ベルガモ」を開業した。生産は妻と義弟に頼み、レアルさんは行商専門で歩いた。現金が無い人には試食として渡した。おいしかったら、次回払ってくださいといった。
この試食戦略は当たった。再度ドアをたたく口実ができたからだ。食い逃げや引っかける人はまれで、損害額は積極的な売り込みで十分カバーできた。怖がって売り渋るよりは、積極的に掛けるほうが売上が伸びることも分かった。その上真面目な人と引っかける人の見分けも、できるようになった。
友人がある日、田舎町のスーパーのオーナーを紹介した。まず試食をしてもらい、二百個を委託販売で置かしてもらった。零細企業は軌道に乗せるまでが戦いだが、ピッツア・ベルガモは今日、月産二万個を生産する企業となった。レアルさんは「私の採った方法は、独立を志す人なら誰にでもできる平易な方法だ」といって推奨している。