「三界に家無し」―未訪日の高齢移民を対象に、去る六月、海外日系人協会が招待した人たちのなかに、予定を早めて帰伯した人がいたことを知って、この表現を思い出した。可哀想に、と同情した▼普通「女三界に家無し」と用いられるが、移民とて六十年も七十年も日本に帰っていなければ、日本に安住するところがない状態になることは明白である。覚悟して渡航して来たのだ。そういう人が圧倒的に多数だ▼日系人協会の招待だが、七十歳代、八十歳代の未訪日移民は、日本に一時帰国の際、引き受け手(家庭)があって、その了承を得て、帰国訪日がかなう。引き受け手は親戚である。多くは甥、姪、従兄弟、従姉妹であろう。血がつながっているとはいえ、何十年も会ったことがない間柄。最初大歓迎があっても、それが、滞日一カ月持続?は、たいへんだ。例外がたくさんあればありがたい▼今度の、予定を早めて帰伯した人は「いとこにこれ以上迷惑をかけられない」と協会の職員に述べた。そうだろうな、と納得できた。以前、着日初日から、ブラジルに帰りたかった、ともらした人の話を聞いたことがある▼この招待は「引き受け手」の問題が以前からネック(ものごとの進行を妨げるもの)であった。主催者は、訪日者が気兼ねなく一時滞在できる宿舎をあっせんできないものか。たった一カ月滞日の六、七十年ぶりの初訪日を、誰が途中で切り上げたいものか。首尾一貫した招待になることを望むものだ。 (神)
03/11/07