12月4日(木)
サンパウロ人文科学研究所は百周年記念叢書第二弾となる『臣道聯盟』(宮尾進著)をこのたび刊行した。臣道聯盟事件を軸に、移民空白時代と同朋社会の混乱を扱った一作だ。
『ブラジル日本移民八十年史』(同編纂委員会 九一年)向けに書かれたもので、加筆修正はほとんどないが、写真資料を新たに盛り込んでいる。
同事件の記録は「読み物」として加工されることも多かった。しかし厳密な資料としての価値を考えた場合、有象無象が目立ったのは確かだ。
同著が一線を画すのはまさにそんな点だ。一貫して貫かれる姿勢は、出来る限りの公正であり中立―。
宮尾さんは「結果として資料からの引用が多くなってしまった。エピソードは『註』に回した。いい加減な判断を下さないよう十分に努めた」と語る。
「勝ち組も負け組も内容には不満に感じているようだった。どちらの側からも書き足りない、と文句をいわれた」
ただ、本人も「註」のエピソードを中心に編めば、「かなり面白い話になったろう」とは認めている。
例えば、臣道聯盟のメンバー二人が、警察の追っ手を逃れペルーへ不法入国するくだり。辿り着いた先のリマ日系社会で〃日本軍部の派遣員〃を名乗り、「日本は勝った」と宣伝。結局逮捕されるがこの二人、「生長の家」の熱心な信者で、牢獄の中では罪人相手に布教していた、という。
「これは新聞などの資料ではなく『生長の家』の記念誌で偶然見つけた話。ペルーに逃げたとき二人の荷物はわずかにバイブルだけだった、と書かれていた」
『八十年史』に発表してから十二年が経つ。この間にも「戦後の混乱期の日系社会に関する話でたまたま発見するような事実がいくつもある」。盛り込まなかったのは「別の機会を考えている」からだ。
そこをひとつだけ特別に教えてもらった。
ブラジルはアメリカの手で「狂信」の日本人逮捕者を強制送還してもらおうと考えていた、との逸話だ。
「米国の国会図書館で保管される当時の電報で分かったのですが、アメリカはブラジルの要望に対しこう答えている。汚い英語なんですねそれが、『てめえの国の不始末くらい自分で片付けろ』と」
近く日系書店などで販売される。人文科学研究所でも販売されている。二十レアル。五百部限定。