12月27日(土)
明るいニュースや節目となる行事の多い年ではなかったか。戦後移住五十周年、県人会式典ラッシュ、NHKの日本移民ドラマ制作発表、日本人到来二百周年、日系最古の移住地の一つレジストロ九十周年、また初開催で大成功を飾ったYOSAKOIソーランなどだ。二年越しで気をもむ材料となっていた百周年祭典協会もやっと動き出した。かと思えばモジ、スザノ農村部での日系人狙いの犯罪も多発、最たるものは行徳マルシオ氏の誘拐事件だろう。今年も編集部内で独自にアンケートをとった結果、次のような十大ニュースとなった。
(1)戦後移住50周年
戦後の移住再開から五十年を数えた今年。その記念式典および植樹などの記念事業が行われた。また、六月の香川県人会九十周年を皮切りに十六の県人会で周年行事が重なったことから、各県の知事・副知事、県議会議長らが相次いで来伯。近年まれにみる慶祝団訪問ラッシュの年だった。
ジェラウド・アウキミン州知事を迎え「ありがとうブラジル」をテーマに行われた戦後移住五十周年記念式典(七月二十六日、サンパウロ州議会)には広島、高知、宮城、岩手各県の知事と福岡、兵庫両県の副知事が出席。日系の政治家、行政官らも目立ったブラジル側来賓と合わせ約六百人が参加する盛況だった。
同式典と県連主催の日本祭りが重なった七月には、高知、岩手、宮城各県人会がそれぞれ創立記念式典を、広島県人会が新会館の落成式を開催するなど節目の祝賀行事が特に集中。今年七月に日本から慶祝にブラジルを訪れた人は計千人にも上った。
県人会の周年行事も重なり、六月は香川、八月は山梨、熊本、愛知、沖縄、九月は栃木、十月は鹿児島、山形、岐阜、十一月は愛媛などの各県人会で記念式典が挙行された。
(2)上原新文協が開始
昨年暮れに急きょ設置された文協改革準備委員会(渡部和夫委員長)により打ち出された理事一新の意向をうけ、鳴り物入りで四月に上原幸啓〃新内閣〃が発足し、新生文協の船出は大きな話題となった。
執行部は改革委員会、高等審議会を設置する一方、今年度から婦人部を廃止。代わりに大豆普及、デカセギ子弟教育委員会を創設するなどの新路線を打ち出した。
また、来年度の新民法施行を見据え、十二月の臨時評議委員会で定款の一部を改正。次期理事会メンバーは通例の評議委員会ではなく新たに総会で選出されることが定められたほか、副会長を五人から七人に増やすことが決まった。
収支面では、十月時点で約十七万レアルのマイナスを計上するなど来年に課題を残した。と同時に、今まで委員会ごとに三十以上もあった銀行口座を統合し、月ごとの収支管理(以前は年毎)を取り入れるなど、経理面での改善もした。
文協に新時代が訪れるなか、四十六年間、今年五月末まで事務局長を務め、歴代会長の右腕的存在だった安立仙一氏が、七十二歳で惜しまれながら永眠(八月十五日)した。
(3)デカセギ犯罪急増
日系ブラジル人が集団で逮捕される強盗などの凶悪犯罪が多発している。
今年二月以降、大阪府内にある複数の郵便局から現金を強奪したとして、大阪府警捜査一課は今年六月、三人の日系人を強盗致傷の疑いで逮捕。さらに四人を国際指名手配した。
七人の容疑者は、今年二月から四月にかけて三件の郵便局を襲撃、被害総額は三千万円に上る。
また十二月には、滋賀県警捜査一課により日系人九人が強盗致傷で逮捕された。
警察庁がまとめた二〇〇二年度の「国際組織犯罪対策」によると、同年度の国籍別検挙状況でブラジル人は一位の中国(三六・五%)に次ぐ、二位(一五・二%)となっている。
さらに深刻なのが、少年犯罪だ。
〇二年度の来日外国人少年刑法犯の国籍別検挙状況で、ブラジルは二位の中国(一六%)、三位のフィリピン(七・一%)を大きく引き離してダントツの一位(六五・一%)。特に多数のデカセギを抱える名古屋や静岡などの中部地方では、総検挙数のうち、約九〇%を占める状況となっている。
(4)百周年祭典協会発足
二〇〇一年暮れに〃早々と〃始まったはずの百周年記念祭典に関する話し合いが、ようやく進展を見せた一年だった。
まず六月十四日に設立総会(三十七団体出席)が開催され、あわや流会かと思われるほどの口角沫(あわ)飛ばす三時間半の議論の末に、暫定的に定款案承認と執行部の指名が行われ、本格的な承認は次回の総会に持ち越された。
九月十三日の総会(四十九団体出席)では、前回と打って変わってシャンシャン総会となり、無事に定款案が全会一致で承認され、理事会、幹事会、監査役などの選任もされ、「ブラジル日本移民百周年記念祭典協会」(上原幸啓理事長)が正式名称となった。
その後、上原文協会長が海外日系人大会に訪日した折、日系研究者協会が立案した「日伯総合センター」案のパンフレットを関係団体に配布説明していたことが判明し、大問題となった。
同祭典協会は十月二十一日に急きょ記者会見を開き、十二月十五日までに記念事業案を応募するよう呼びかけると同時に、上原理事長は「誤解を招いのたのなら謝ります」と「日伯総合センター」問題を謝罪した。
十二月五日、理事会が開催され、正式な団体登録が終了したことが報告され、新たに副理事長団体が選任され、二十九団体となった。
十七日に記者会見が行われ、百周年記念事業案に四十三案(三十一団体)あった旨、報告された。〇四年四月までに最終案に絞り込む予定。次回総会は二月十四日に開催される。
(5)県費留学補助金カット
過去五千人以上の日系人を送り出してきた「県費留学生・研修生受け入れ制度」が外務省の補助金カットの影響で来年以降の存続が危ぶまれた。ブラジル日本都道府県人会連合会や各県人会は、今年五月以降検討を重ね対策を練ってきた。
今年三月中旬に大分県から同県人会に送られたEメール連絡を機に、県連を通じて問題提起。外務省の補助金がなくなれば、各都道府県の負担が大きくなるため、東京や青森など一部の県では早々と中止が打ち出された。
これに対して、大分や宮城、宮崎など早期に対策を練ってきた県人会では自助努力をすることで継続の可能性が高まっている。
事前の日本語研修の廃止や往復交通費の自己負担、日当の廃止もしくは半減などが条件だ。
母県からの連絡待ちという受け身の県人会が多い中、県連では留学生・研修生問題委員会を中心に海外日系人大会などで理解を求めてきた。
(6)米国通過のブラジル人にビザ義務化
一昨年九月に起きた同時多発テロ以降、国内警備を強化しつつあるアメリカは今年八月、通過の際にはビザを必要としない「ビザなし通過プログラム」を廃止。日本人は対象とならないが、ブラジル人を含む多くの国がトランジット(乗り換え)でもビザの取得を義務付けられた。
この措置がブラジルの「空の足」に深刻な影響を及ぼしている。デカセギ目的で日本に向かう日系ブラジル人はもちろん、里帰りを計画している在日ブラジル人にとっても、アメリカ経由という一番気軽な「足」を奪われた格好になったからだ。
日系旅行代理店は同月、キャンセルの受付や欧州周りによるルートの検討に追われた。ヨーロッパは六月から八月にかけてがブラジルからの観光ピークで八月まではほぼ満席の状態が続いた。
ブラジル人乗客が減少、利用実績が落ち込んだとして、日本航空は来年一月十八日から三月末までを予定に、現在週四便運行しているサンパウロ―東京・名古屋を三便に減便する。バリグ・ブラジル航空は名古屋―ロサンゼルス線を来年一月十八日を最後に一時運休。来春をめどに欧州ルートによるリオデジャネイロ線の再開を目指す。
(7)NHKが日本移民テーマにドラマ
NHKは二〇〇五年の放送開始八十周年を記念しブラジル移民史をテーマに特別ドラマ「ハルとナツ・届かなかった手紙」(仮題、脚本=橋田寿賀子)を制作すると七月に発表した。
同年秋に放映される予定で一話七十五分の五話で構成。昭和十年(一九三五)、家族と北海道からブラジルに移民した十歳のハルと日本に残された二つ下のナツ二人の波乱万丈の生涯が描かれ、さながら「二人のおしん」といった内容になると伝えられた。
注目の出演者については、同局からの正式発表を前に日本の一部マスコミが「主役のハルは米倉涼子さん、その晩年を森光子が演じる」とスクープ。人気者二人の出演および来伯が見込まれドラマへの期待感は一層高まった。
ブラジルでの撮影は来年五月から年末までの期間に二回分けて行われる運びで、いくつかの場面で移住者および日系人俳優の特別出演も計画されている。
打ち合わせ準備に来伯した同局プロデューサーは「社の総力を挙げて取り組んでいきたい。ご当地ドラマになれば」との考えを明かしており、制作の進行状況が今後もコロニアの話題となりそうだ。
(8)デカセギ留守家族への詐欺多発
出稼ぎ中の家族を装って電話し、お年寄りから金を騙し取る詐欺がブラジルで多発している。その中には日本で頻発中の「オレオレ詐欺」も含まれている。
サンパウロ総領事館(石田仁宏総領事)によると、カンピーナスやアチバイアなどで被害が発生している。被害届を出すのはごく一部だけに、実際はもっと多くの被害や未遂事件が起きているとみられる。
カンピーナスでは「出稼ぎ中の息子さんが事故を起こした弁償代を立て替えているので職員に金を渡して」というところまで同様だが、不審に思った家族が「息子と話したい」と希望。「風邪で声がかすれているけどオレだ」と本人に成り済ました男が家族と話したという。
警察庁によれば、日本国内一月から十月までの累計認知件数が三千八百七件(内訳、既遂二千七百六十八件、未遂千三十九件)。被害総額は二十二億六千三万六千八十四円にのぼる。
(9)日本人到来二百周年式典
一八〇三年に日本人四人がロシア軍艦に同乗してブラジルに初上陸したことを記念して行われた、日本人ブラジル到来二百周年式典が十一月十七日午後六時から、サンタカタリーナ州都フロリアノーポリス市の市立文化センターで開催された。
センター内のミニ日本庭園には二百周年の記念碑も除幕された。蘭学者の大槻玄沢がブラジル初上陸した日本人四人の口述記録をまとめた『環海異聞』の関係部分だけを、ポルト・アレグレ総領事館(長島浩平総領事)がポ語に翻訳し、パンフレットを製作、その場で配布した。
ニッポ・カタリネンセ協会(新里エリージオ義和会長)と南伯留学生協会が共催し、SC州運営管理局のマルコス・ビエイラ局長、マウロ・パッソス連邦下議、南伯方面陸軍司令官のレナート・チバウ・ダ・コスタ氏、小原彰・陸軍予備少将ら、多数の来賓が姿を現した。
初めての日本文化週間も合わせて開催され、長崎原爆資料展示、若者らによる漫画アニメ紹介コーナー、移民資料や日本の郷土民芸品など展示され、日系人の希薄な当地で、大いに存在感をアピールした。
(10)行徳マルシオ氏誘拐
スザノ市でスザノ・ショッピングを経営する行徳ジョルジさんの息子、行徳マルシオさん(三五)が六月四日夜、同ショッピングを退社直後に銃などで武装した六人組の男に誘拐された。五十六日間にわたる監禁生活のなかで、度重なる脅迫と、片耳を切断されるという虐待を受けたものの、七月三十日、無事に解放された。
伯字各紙では、身代金は最高額で四百万レアルまで高騰、サンパウロ州市警誘拐対策課(DAS)や家族による交渉の難航ぶりが伝えられた。事件解決のきっかけは、七月二十九日に誘拐犯の一味、アジナウド・ジアス容疑者が大サンパウロ圏のポアーで逮捕されたこと。DASの粘りにより、マルシオさんは、身代金なしで解放に至った。
地元でも有数の資産家として知られる父、ジョルジさんは日頃から身辺警護にも気を使っていたが、マルシオさんはボディーガードをつけることなく、高級車を乗り回していたことから、周辺からは当時、マルシオさんの無防備ぶりを指摘する声も上がっていた。
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日本移民最古の植民地の一つ、レジストロが入植九十周年を迎えた。これを記念して十月十九日、レジストロ日伯文化協会(山村敏明会長)主催の祭典が開催。また、メイン事業の新会館および高齢者活動センター、市立保育園が完成した。十月二十七日の落成式には、姉妹都市の岐阜県中津川市からの慶祝団も駆けつけ完成を祝した。その他、灯篭流しや演芸会、写真展なども記念行事として行なわれた。
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十月にキューバで開催された野球W杯でブラジル代表(佐藤充禧監督)が七位に入賞した。準々決勝で対戦した地元キューバに、三対四で惜敗。粘り強い試合展開で熱戦を繰り広げるも、九回裏に本塁打を許し逆転サヨナラ負け。指名打者を含む、先発十人中日系人が八人と、日系の活躍を印象付けた試合でもあった。七位決定戦では、韓国を八対三で下し、一九七二年に唯一出場した大会の十二位を上回る成績を残した。
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新しいコロニア芸能が誕生―。第一回YOSAKOIソーラン祭が、七月二十日に文協講堂とガルボン・ブエノ街で開催された。日系コロニア各地から十二チームが参加し、三回の公演におよそ五千人が拍手を贈った。素早い動きと大音量の音楽、意外な衣装で老若男女を巻き込み新風を吹き込んだ。第二回は、七月にイビラプエラ体育館と同公園で予定されている。
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福岡県人会(渡部一誠会長)内で会長派と改革派が農業実習生派遣事業中止をめぐり紛糾した。発端は、同会が会の信任を得ず、福岡県に送った「実習生の治安を保証しかねる」旨の文章。
五月二十四日には改革派が現体制を一掃する臨時総会を開催。会長側は県人会運営や同事業に関する経理面での問題を指摘し、改革派顧問・相談役らを告訴。
八月、福岡県議の調停で、一応の決着を見た。
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四月、モジ・ダス・クルーゼス市郊外で日系人を狙った殺人、強盗などの凶悪犯罪が相次いだ。五日には、同市郊外モジ・タイアスペーバ街道沿いで暮らす浅野三男、ヨシ夫妻が強盗に殺害された。続く、十一日には、同街道でカズヒロ・カトウさんが所有するシチオに強盗が入った。