新年号
04年1月1日(木)
地盤沈下の著しかったブラジル日本文化協会に、改革の大鉈が振るわれ出してほぼ一年―。上原幸啓新リーダーのもと、理事会主要ポストは二世識者で占め、新たな運営理念を掲げて組織固めに精出している。が、訪日就労者の支援活動や大豆普及以外、事業取り組みの青写真がどうもまだよく見えてこない。新生文協はどこへ向かおうとしているのか。改革準備委員会の提言を検証する形で、舵取り役の上原会長らに聞く。
四月に就任して早九カ月が経った。会員の減少、INSS罰金問題、移民史料館と国士舘スポーツセンターの双子の大赤字、百周年祭典主催団体の立ち上げなど、様々な課題を抱えて新生文協は始まった。
「とにかく、改革準備委員会が作った指針に基づいて動き出した、ということです」と上原会長は改革が〃始動〃したことを強調し、成果を問わない。「会長への取材」として申し込んだ今回の会見も、「私だけではよく分からないから」と吉岡黎明第一副会長が同席することになり、結局、吉岡氏が半分話を引きとった。
【新規会員獲得】
改革指針には、新規会員を募り、より新しい世代や他民族出身者をも獲得するとの方向性が示されている。
上原会長は「ABJICA(JICA研修生OB会)やSBPN(日系研究者協会)の若者も徐々に来るようになっている。イベントによっては貴賓室に入りきれなくて、大サロンに会場を移すこともあった。青年文協とか、若者に参加してもらう工夫をしている。少なくとも減るのはストップした」と弁護する。
実際の会員動向を見ると、昨年の全会員は二五四二(法人三六六、特別一五三、正会員二〇二三)で、今年十月末時点で二五七二(法人三六一、特別一四四、正会員二〇六七)と漸増した。
若者が文協に集まることは、けっして経済面だけでなく、将来への人材確保という面からも重要なことであり、その点の評価はあってもよさそうだ。
中島エドゥアルド事務局長によれば、正会員の内訳は、一世が約四五%、残りの大半が二世三世、若干の非日系会員だそう。総じて高齢者が多く、会員の若返りを計ることも、焦眉の課題となっている。現在集まりつつある若者を、どう会員化するか。新年の課題となりそうだ。
吉岡副会長は新規会員獲得の腹案を持っている。「日本文化をブラジル人に紹介するツアーを考えています。例えばイビラプエラ公園の日本館を使って、お茶、生け花、錦鯉、書道などのワークショップを開くと同時に、移民史料館も見学してもらい、日本文化への理解を深めてもらうのです。食事もリベルダーデのレストランということも可能でしょう」。
【地方団体との連携】
改革指針には、他の日系団体との連携を深める点にも論及されている。この点について上原会長は「だいぶやりましたよ。ドウラードス、フロリアノーポリス、リオ、ベロオリゾンテ、パラナなどにも文協副会長が足を伸ばした」と自己評価する。「とにかく最初から十年計画だと思っていますから」と今後に期待を寄せる。
九カ月で全てを変えることは、もちろん難しい。しかし、最初から「十年計画」では気が長過ぎないだろうか。十年という長期計画を立てるのなら、その前提としての短期計画、中期計画があってこそではないか。「十年計画」だけでは、計画性などないに等しいし、「気難しい一世が死ぬのを待っているだけじゃないの」という陰口まで聞こえてくる。
■1年で17万レアルの赤字
【赤字財政】
文協の赤字財政はどのように解消していくのか?
〇三年一月から一〇月までの実績からでは、予算では〃一四七四レアル〃に黒字がでるはずだったのに、フタを明ければ一七万四一三八レアルもの大赤字を計上している。
上原会長は「切り詰め、切り詰めして無駄を省いている。監査理事が二カ月にいっぺん、センターヴォ単位までチェックしている」と強調する。ただし、昨年まで二八だった委員会は、今年三二に増やされた。その分、今後支出も増えることが予想される。
赤字の多くは今年から適用された定年制で多くの一世職員に退職金が払われたことに起因する、と中島事務局長は説明する。
ただし、移民史料館運営委員会は予算ではプラスマイナスゼロになるはずだったのに、一四万八三六八レアルもの大赤字になった。「本来昨年中に会計処理するはずの九階リフォーム費用が、今年度にまわされたから」(中島事務局長)。
岩崎前会長は在任中、「〃館〃の名のつくものは全て赤字」と語っていたが、自助努力を重ねる国士舘スポーツセンターは七万の赤字のはずが、約四万五千に収めた。日本館には黒字に転換したが、「同じ公園内でやっていた中国兵馬俑展のおかげでオリエンタルブームになり、大勢のお客さんが日本館を訪れた」(中島事務局長)そうなので、こちらは自助努力とはいえなさそうだ。
その他、同事務局長は「昨年はわずかな収入だった管財管理委員会(講堂などの賃貸収入)が、今年は約八万六〇〇〇レアルを計上しています」と経営手法の転換を強調した。
また、〇二年までは一年単位でしか管理していなかった各委員会の収支を、〇三年からは各月単位に変更した。それに伴い、以前は各委員会ごとに幾つもあった銀行口座を減らした。「月々の予算を各委員会から出してもらい、その分しか渡さないようにしたので、赤字の拡大を防げます」と同事務局長は説明する。
【新しい財源】
極力切り詰めても、すでにある財源で黒字転換できないのなら、新しい財源を探る必要があるのではないだろうか? 吉岡副会長は「新しい収入は特にない。年が明けてからの大仕事です。新年は絶対に収入を増やすことをやらなくては」と弁明する。「資金集めの慈善晩餐会開催も考えています。また史料館の出口に〃寄付箱〃設置も」と苦肉の策を語る。
文協が抱える、もっとも深刻な構造的問題は会費収入の減額だ。中島事務局長によれば、一般個人の正会員(年会費九〇レアル)は会費という面からみれば、文協財政を潤す役目は薄いという。
「財政的な面からすれば、やはり法人会員、個人で大型の寄付をする特別会員なの存在が大きいですね。一九九四年には法人は四九〇ありましたが、現在までに一三〇社も減っているし、特別会員も二五〇人から一〇〇人以上減っています」と分析する。
ならば、新年から法人会員や特別会員の獲得に力を入れ、足元を固める必要に迫られよう。
【INSS罰金問題】
連邦慈善団体登録を剥奪されたことに端を発し、〇一年一〇月にINSS(社会保険院)から一七九万レアルもの罰金を課せられたINSS罰金問題。上原会長によれば「慈善団体登録を戻す裁判は現在も進行中で、今のところ大きな動きはありません」という。またいつ頃終わるのかも、見込みが立たないそう。依然としてアジビ・サロモン弁護士事務所が担当する。
万が一の場合、文協の屋台骨が揺らぐ大問題だけに、引き続き、繊細かつ冷静な判断が必要な課題だ。
【情報センター機能】
改革指針によれば、文協は日本文化や日本移民に関する情報センターとして確立させる、とある。これについてはどうか?
吉岡副会長は「まだ何もできてない」と本音をもらす。現在、大幅に改良されつつある文協のホームページにさらに魅力的な日本文化紹介を入れ、情報提供機能を充実させることは検討中だそう。
【新機軸】
今までの文協にない新活動は、なんといってもデカセギ子弟教育委員会と大豆普及特別企画委員会だろう。
デカセギ子弟教育委員会は新年から、文協とは独立したNPOボランティア団体「文化教育連帯協会」(ISEC)として正式登記し、本格的な活動に入る予定になっている。
また大豆普及特別企画委員会は旧年中、エスペランサ婦人会、サウーデ文協、アルモニア学生寮などで講習会を行い、約百五十人ほどに料理法を教えた。「新年は五〇カ所で講習会を開きたい」と吉岡副会長は希望を述べる。「ずっと続けることが目標。いつまでに何をするという目標は作らない」と語る。
「それって、なりゆきでいいってことですか」と問うと、「う~ん」と口ごもった。新執行部に共通する〃マイペース〃思考だ。それがブラジル式の良い面でもあることは、誰もが百も承知だが、時と場合によってではないだろうか。
【新年の展望】
吉岡副会長は「サンパウロでやっている催しごとを、地方へ持っていくことを考えている。有機農業の横森さんの講演会を地方でも開催したり、地方とのつながりを強めたい」。一方、上原会長は「文協の大問題は、どう収入を増やすか。それとやはり、地方へ日本文化の講演会やセミナーをもっていきたい。どこから、どうスタートするか、これから考えたい」と語った。
昨年までのたたき上げの執行部と違い、旧年四月に全員入れ代わった新執行部には、法曹界や学術会出身のエリート層が多く、頭を下げて寄付をもらいに回ったり、経営管理や目標期限の設定などの企業的発想に弱いという指摘を頻繁に聞く。
確かにシガラミのない運営はできるだろうが、「新しいこと」が必ずしも「良いこと」とは限らない。ただ単に経験が少ない執行部ではデメリットにしかならない。
若者の集客、緊縮財政、デカセギ子弟教育問題への取り組み、大豆普及、百周年祭典協会の立上げなど評価すべき点も多々あるが、改革の本番はこれからだろう。新年こそは文協再建のために、改革の青写真をより明らかにして断行し、なりふり構わず寄付集めや、会員集めをするぐらいの心意気をみせてほしいものだ。
(取材は2003年12月20日)