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コラム 樹海

 「独居や思う事なき三が日」は夏目漱石が詠んだ正月の句である。英文学が専門なのに漢学の素養も素晴らしく正岡子規とは友人であり俳句の嗜みも深い。独居は「ひとりい」だが、あの繊細な人物が「思う事なき三が日」とも考え難いけれども、あるいは雑煮を楽しみ独り静かに正月を心の赴くままに楽しんだのに違いない▼ニッケイ新聞は五日が仕事始め。邦字紙の世界からも活字が消えて久しいし、昔のように印刷工が忙しく手や足を動かす風景はなくなってしまったが、パソコンに向かって黙々と印字する姿は今も昔も変わることがない。本来なら「印字機の既に喧(かしま)し事務始め 草城」なのだが、音の騒々しさこそなくなったものの若い同僚らの手はパソコンを見つめて黙々と動く▼その昔。記者の筆記具は万年筆が主流。ボールペンもあったのだが、ブラジルの製品は質が悪くて「書けない」のが多く使いものにならないし原稿用紙を使ったのも懐かしい。それが―今は鉛筆やペンで原稿を書く記者はニッケイ新聞には独りもいないのは何とも残念という気もする。これも時代というものだろうし、コンピューターになっても記事が真実を伝えようとする新聞記者の原点は変わらない▼星名謙一郎氏がブラジルで初めての週刊「南米」を発刊したのが一九一六年であり後に幾つもの邦字紙が続いたけれども、後続移民が途絶えた今はまさに冬の季節ながら、世の動きと事実を広く読者にを使命とする責任を負って今年もまた頑張りたいと念じております。 (遯)

04/01/06