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旧都リオの古典音楽=ヴィラ・ロボス協会名誉会員 牧田弘行さんにきく(上)=大地を歌う民族主義派=ブラジル音楽名奏者の宮崎氏

1月7日(水)

 リオデジャネイロ日系協会の元会長、牧田弘行さん(六九)は、日本のヴィラ・ロボス愛好者が結成する協会の名誉会員だ。フランシスコ・ミニョーネの未亡人とは友人である。ところでロボスにミニョーネって一体だれ?……。両人が二十世紀ブラジルの古典音楽界を代表する作曲家と知る人はそう多くない。というのもブラジル音楽が好きといっても一般にはサンバ、ボサノヴァ止まりだからだ。愛好家の牧田さんと、クラシックの略史をたどりながら旧都の街を歩いてみた。(小林大祐記者)

 まずは牧田さんが住むコパカバーナ。「ブラジルのクラシック類も充実している」というお勧めのレコード店へ。潮の香りがかすかに漂う「モダン・サウンド」(電話21・2548・5005)。奥へと進んだ牧田さんが「これを見てください」と抜き出した一枚は宮崎幸夫さんのCDだった。
 どうして「ブラジル古典音楽」の部に日本人奏者の作品が。聞けば、宮崎さんは七九年、ブラジル政府主催のピアノコンクール優勝者。ブラジル音楽の演奏家として名高いとか。八七年のロボス生誕百年フェスティバルにも招かれている、という。  
 九〇年代にはブラジル各地でリサイタル。その際、陰で支えたのが牧田さんだった。「日本で彼がナザレの楽譜を出版するときもお手伝いしました」
 ナザレとは俗に〃ブラジルのショパン〃と呼ばれる、エルネスト・ナザレのこと。ロボスをして「ブラジルの魂を具現する人」と言わせしめた。
 「ワルツ、ショーロ、タンゴなんかを作曲した。どことなくサロン的」と牧田さんは評する。その入門編として、「オデオン」「コンフィデンシア」を聴くことを薦めてくれた。
 ロボス一周忌に当たった六〇年、東京外国語大学を卒業後、石川島播磨の社員として来伯。大学ではオーケストラ部に在籍するなど古典音楽には造詣の深かった牧田さんだが、当時、この偉大な作曲家に関する知識は皆無。しかしひとたびその存在を知るなり、ほれ込んだ。
 八二年にロボス協会の村方千之会長(指揮者)と出会い交流が始まると、協会が日本で主催するコンサートにリオの音楽家を派遣するなど協力。つてを頼ってやってくる音楽留学生やプロ奏者たちの世話役を買って出るなどの交流事業に一役も二役も買ってきた。
 「とにかくロボスを初めて聴いたときは、ブラジルにもこういう人がいるんだ。と驚きました。必聴の曲ですか? ギター独奏もいいし、定番はやはり『バッキアーナ・ブラジレイラ』の五番アリアかな」
 ドビュッシー、ストラビンスキー……。ロボスが台頭する時代の前後の西欧音楽だ。ブラジルでは同じころ、「民族主義者」グループの活動が際立ち始める。西欧の模倣ではなく、ブラジルの土地と大衆の生活に触発されるべき。そう考えた音楽家たちがいた。 
 ロボスはその急先鋒。例えば、ボタフォゴ区にあるロボス記念館にはこんな言葉が掲げられている。
 「わたしはまったきブラジル人だ。わたしの作る音楽は広大なブラジルの大地、川、海を歌わせる」
 「この国の古典音楽にブラジルらしさが生まれてくるのは彼以降のこと」。そう牧田さんも認めるロボスに次いで比較的日本人愛好者の間で知名度の高い作曲家といえばミニョーネだろうか。
 牧田さんはこちらの偉人とも縁がある。(つづく)

■旧都リオの古典音楽=ヴィラ・ロボス協会名誉会員 牧田弘行さんにきく(上)=大地を歌う民族主義派=ブラジル音楽名奏者の宮崎氏

■旧都リオの古典音楽=ヴィラ・ロボス協会名誉会員 牧田弘行さんにきく(下)=深い素養から大衆音楽=3日に1回オペラ上演