草の根――葉の陰になって見えない草の根もと。庶民の意味もある。ポッソス・デ・カルダス市(ミナス州)の柔道家・松尾三久さんは、草の根の本来の意味、陰になって見えない部分で活動している、講道館有段者会に所属している柔道家だ▼もう還暦が過ぎた。新年早々から、生徒数が三百五十人を越える。町のクルビ、道場では成人を、州立・市立校四校で子供たちを教える。学校教育のなかに柔道を取り入れてもらい、教えられたら最高、というのが持論で、ようやく実現に近づいている。そこまでこぎつけるのに二十五年余りかかったという▼松尾さんのポッソスでの別名は「センセイ」(先生)だが、このセンセイにどうやら柔道の授業料といったものはない。むしろ持ち出しをする。児童たちに柔道着をつけさせたい、と購入してやったが、父母たちが(低所得層なので)月賦を支払えない。それをかぶってしまったりする▼学校の道場づくりでも、ローナの下に敷く廃ゴムの購入(以前はタダだった)、運搬を自費でやったりする。そうしないと授業が始まらないのだ。それでも柔道の指導から離れない▼柔道への興味を持たせ、持続させようと、稽古は丁寧なものだ。道場では女子生徒にも丹念に、気長に受け身の練習を手伝ってやる。その現場を姿をみると、涙腺がゆるんでくる▼松尾さんには、ポッソスの町をコスモスで埋め尽くしたい、という別の夢もある。すでに着手している。根がやさしいのである。 (神)
04/01/07