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日本文化の伝承を考える(9)=勤勉

2月7日(土)

 私自身、自分のことを今まで一度も勤勉だと思ったことはないので、日本人は勤勉であるという説には甚だ疑問をもつ。「日本人の働き蜂ぶりを企業への『忠誠』によって説明しようとするが、日本の労働者の全てが働き蜂ではない。非効率的な集団も少なくない。農業、教育、企画部門以外の公務、旧国鉄なども、同じ日本の労働者でありながら日本的と指摘されるような性質は見られない。日本人の特質に関する理論は、これらの異なった例をも同時に説明出来る理論でなければならない。もともと日本人は必ずしも勤勉ではない。」という意見もある。
 雇用されている人を対象に勤勉ということを考えてみて、ある一定の時間内にどれだけの仕事をするか、ブラジル人と日本人の比較すれば、平均的日本人は確かに平均的ブラジル人より仕事をしそうだ。そして、ブラジル人は与えられたことのみ仕事をするが、日本人は与えられたこと以上の仕事をすることもあるだろう。日本で「あの人は良く働く」と評する場合、10の仕事を10しただけでなく、10与えられた仕事を11した場合を言う。
 ブラジル人の勤務について、退社時刻が5時であれば何分か前にさっさと仕事をやめ、5時丁度にタイムカードを押して会社出て行くという批判を耳にする。ブラジルでは、恐らくほとんどの給与生活者は、仕事とは、生活と余暇を過ごすための資金を稼ぎ出す手段と考えているのだろう。
 かなり以前、ある画廊で個展をしたとき、係りの女性に「週末は何をして過ごすのか」と聞かれた。「私の仕事はやきもので、日曜でも仕事をする」と返事をすると、それでは、「あなたのVIDAはどこにあるのか」と聞き返されたことがある。
 「趣味は仕事」ということが、むしろ誉め言葉と考えられる日本とは、仕事に対する考え方が違う。家庭、即ち個人のプライベートの時間より優先して仕事をするのは、会社という家にも似た共同体の中で、社員が会社を支えているという意識によるのか。または会社が良くなることによって自分も良くなると考えているからなのか。それとも仕事に対する自分なりの哲学があってのことなのか。
 経営者について見れば、とても日本人の方が勤勉だと言えそうにない。
 仕事関係で顔を合わせれば「忙しいですか」と挨拶をする。仕事で忙しいのは結構で良いこととされる。「日本人は勤勉だ」とはそういうことを指して言うのだろうか。(中谷哲昇カザロン・ド・シャ協会代表)