アメリカの狂牛病には参った参った。正式には牛海綿状脳症(BSE)だそうだが、日本でも感染牛が見つかっており北米ばかりを批判してもいられない。これに罹患すると牛は全滅する危険もあるので放ってはおけないし、感染すれば屠殺処分しかない。牛にとっても悲劇だがヒト族も「鋤焼き」や血の滴るようなビフテキともお別れだから寂しい▼日本で困ったのは「牛丼」なる庶民派の食べ物が姿を消してしまったことだ。最大手の「吉野屋」は一千店近くも全国に展開するし二番手の「松屋」はほぼ六百店。「すき屋」は三番手ながら約五百店舗を出店する「牛丼」が売り物の人気店である。これらの店々が原料に使うのが米国産牛。国産の神戸牛と参りたいけれども高価すぎてとてもとても―▼ならば豪州やニュージーランドでは如何か―と質問すると「いけません。味が悪過ぎて使えません」のご返事である。牛鍋の変形と思われる「牛丼」が売れるのは「旨さ」もさりながら「安い」のが魅力。一杯が一金・二百八十円也。ラーメンだって八百円や一千円するのに牛肉がたっぷり盛られた丼に味噌汁も付いて三百円を切るのだから人々が駆けつけるのも当たり前なのだ▼今頃、日本では「吉野屋」や「松屋」は嘆き哀しみ庶民は泣き喚いているに違いない。それならばと店側も「豚丼」や「イクラ鮭丼」などの新商品を並べてはいるけれども、どうやら北米産の「牛丼」にはなかなかに及ばないようだ。狂牛病は怖い―と、つくづく思う。 (遯)
04/02/21